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恐らく一時間半、二人はそうしていた。せっかく買ったたこ焼きも食べないまま、時々喉の渇きを思い出し、飲み物に口を付けてはただ夜空を見上げていたのだ。
やがて最後のスターマインがはじまって、一層派手に花火が上がっていく。爆音が次々に鳴り響く。そして、最後に最も美しい花を咲かせんと、これまでで一際高く光の玉が昇っていった。その後、大きな枝垂れ花火が夜空いっぱいに花を咲かせ、腹に響くような爆音を響かせた。
「綺麗ですね……」
まるで今日、はじめて花火を見たかのように晶が言った。最後の最後までほとんど黙っていたのに、そう言った。
「そうだね」
三木はそう返した。本当に綺麗だった。ところがその後すぐ、晶が口にしたセリフに、三木は笑いを堪えきれずに噴き出してしまった。
「お腹、減りました……」
「……っ!」
「え……?」
確かに三木も空腹だった。花火が終わった後は何かを食べて帰ろうか、とは考えていたが、ここまで空腹になる予定はなかったのだ。それもこれもみんな夏の花火と、隣にいる晶が可愛いせいだった。
「了解、何か食べて帰ろう」
「でも、先輩。たこ焼きは?」
「これはあげる。晶は育ち盛りだからね。お土産」
冗談めかして言うと、晶は途端に口を尖らせた。彼のそういう幼さを感じさせる反応は三木好みだ。寧ろそれが見たくてわざと怒らせてみたのもある。
「おれはこれからなんですよ」
「そうだね」
「もう春から一センチも伸びました」
「すごいじゃないか」
「今、百六十六センチです」
「その調子、その調子」
どんなに褒めても、晶は満足しなかった。口を尖らせたまま、鼻を鳴らしてちょっと悔しそうだ。
……可愛い。
「おれ、もっとでっかくなって、先輩と並んで歩けるようになりたいです」
「晶はでかくなりたいの?」
「はい。だって、今じゃおれだけ子どもみたいでしょ。せめてもうちょっと、一緒にいる時に釣り合うように……なれたらいいんだけどなぁ……」
尻すぼみになりながら、晶は言った。そんなことを考えていたのかと思うと、もう可愛くて愛おしくて堪らない。一気に晶への想いが溢れてくる。気が付けば三木は、しょぼくれた顔でため息混じりに言った晶の手を取っていた。
「せんぱ――」
「晶……、そんなのはどっちでもいい。それよりも俺は……」
好きだと言ったら照れ臭そうに微笑んでほしい。同じ言葉を返してほしい。いつかそういう日が来ることを三木は出会ったその日から待ち焦がれていた。もちろん、今の関係だってそれなりに気に入っている。晶と一緒にいる時間はとても心地がいいし、気持ちを伝えたとき、それが壊れてしまうのも怖い。けれど、踏み出さなければこの関係はいつになっても変わらない。伝えなければ、気持ちは決して届かない。
伝えたい――。俺は今、こんなに晶を好きなんだって――。
「晶、俺は――」
「晶!」
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