194人が本棚に入れています
本棚に追加
体の中では妙な緊張感と興奮がものすごいスピードで駆け巡っていた。純の顔が見たくて、早く気持ちを打ち明けたくて堪らない。それなのに、どうか来てほしくない、あわよくば来ないでくれ、という何とも矛盾した気持ちをも抱えている。それに煩わしさを感じながら、晶はその場で待ち続けた。
校内に人の気配はほとんどない。耳には相変わらずうるさい蝉の鳴き声と、吹奏楽部の誰かがどこかで楽器の練習をしているのであろう音色が、風に乗って微かに聞こえてくる。ワンフレーズを何度も何度も繰り返しているそれは、校内で聞けば生活音のように自然なものだ。
「おーい! 晶! お待たせ!」
不意に馴染みの声が聞こえて、晶は声のする方へ振り返った。首筋に玉になった汗を流しながら、サッカー部のユニフォーム姿で駆けてやって来たのはまさしく純だった。
その顔、姿を見て、一瞬で心臓が跳ね上がる。黒髪のツンツンした短髪に、細身だが男らしくガタイのいい逞しい体。背は高く、手足は長い。涼し気な奥二重の目に見つめられればうっとりしてしまって、もう目を離せなくなった。
「純ちゃん……!」
ホント、いつ見てもかっこいいなぁ……。
「話って何? あんまり時間ないから手短に頼むよ」
純が言った。もちろん、晶もそのつもりではいる。が、正直なところ自信はなかった。
「うん……。もう部活はじまるんだ?」
「あぁ、ほら。八月のインハイまで一ヶ月切ったところだからさ――」
「青野くーん!」
突如、二人の会話に割り込むようにして頭上から黄色い声が降ってくる。見上げてもあまりに眩しい太陽のせいで顔もわからない。けれどその声で彼女たちが純を好いていることはすぐにわかった。
「これから部活ー?」
「おうー!」
「頑張ってねー!」
「サンキュー!」
別に甘い言葉を発したわけでもないのに、純が校舎の窓を見上げて手を振った途端、黄色い声がやたらと騒ぎ立てる。思わず、晶は頬を膨らませた。
最初のコメントを投稿しよう!