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彼は校内一といっても過言ではないほどの人気者だ。何しろこの外見で、毎年行われるインターハイではすっかり常連となっている我が校のサッカー部に所属し、さらに彼はその中でもスーパーエースと呼ばれているのである。一年生の時はスーパールーキーだったらしい。どっちにしても大したものだ。
ついでに勉強も人並みにできる純の登下校時には、黄色い声が必ずといっていいほど飛び交った。去年のバレンタインにはカバン一杯にチョコレートをもらって帰ってきたし、聞くところによると今はファンクラブまであるという。
晶は今年の春、この高校へ入学してきた時から焦りを感じていた。純を追ってこの学校を受験し、入学したはいいものの、幼馴染で想い人の彼はまるで手の届かないみんなのアイドル的存在だったからだ。
晶は純の幼馴染としてただそばにいるだけで楽しかったし、それまでこれといった不満があったわけでもない。が、せっかく同じ高校へ上がったというのに、明らかに彼と距離ができてしまっていたことには焦りを感じた。
また、純が友人に「弟みたいなもんだ」と晶を紹介する度に、或いはどこかの誰かに告白されている現場を目撃する度に、晶は面白くなかったし、不安にもなった。いつの日か純を誰かに取られてしまうかもしれない未来を想像しては、眠れない夜を過ごすこともあった。
今回、晶に告白する決意をさせたのは、そういう焦りとか不安感だった。弟分でも友達でも幼馴染でもない。恋人になりたい。晶はずっとそう思ってきたし、心の中ではいつでもそれを純に訴えかけてきた。しかしどんなに長く、そして強く想い続けていても、それはやはり言葉にして伝えなければ届くはずもないのだ。
「おい、何黙ってんだよ。話があるんじゃないのか?」
純が急かす。晶はごくり、と唾を飲んだ。
実際、それは長々と話し込むようなことではない。好きだと言って、恋人になりたいと言って、あとは相手の返事を待つ。それだけだ。だからほんの一分、いや、数十秒あればいい。
ただ、告白というのはそれを話し出すまでに時間がかかるのが普通だろう。それを打ち明けたら何を言われるか考えただけで不安になって、もじもじして、緊張で準備していた言葉が全部吹っ飛んで、頭が真っ白になって、やたらと本題へ突入するのに時間がかかる。晶だって例外ではなかった。しかし、だからこそこんな時の為に、ラブレターを書いたのだ。誰より純を想っているのに、その時が来てもきっと緊張してしまって、上手に伝えることは難しいのだろうと思ったから。
「純ちゃん。おれさ、純ちゃんに渡したいものがあるんだ」
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