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ソルベ オ シトロン
「お客さん」という声がした。「お客さん、終点ですよ」と肩をたたかれ、呼ばれているのは自分なのかとぼんやり考える。ふたたび、「起きてください」と声がかかるから、どうやら僕は眠っているらしい。
「…はい」
目をこすりながら首を持ち上げる。
「大丈夫ですか?」
駅員だった。僕は無言でうなずき、「すみません」と付け加える。
ふらふらとおりたプラットホームは真新しくどこもピカピカで、記憶していた木造のしなびた駅と結びつかない。場内アナウンスと人々の話し声を聞くともなく聞きながら立ち尽くした。
間違った場所にたどり着いてしまったのかと駅名標を見上げるが、たしかに目的地のようだ。
しばらく茫然として、三年ぶりだから改装をしていてもおかしくない、と思い至る。
ひとりで驚き、ひとりで納得し、あくびをひとつして改札へ向かった。
風は湿気をふくみ、今日という一日が蒸暑くなることを予感させた。
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