接続承認契約者

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接続承認契約者

259a429a-96e3-4b3d-bf57-e7665733aa91 小説の中では転生というものはあまりにもありふれた現象でしかない。 なので実際に転生を体験した場合に、連想として「ラノベかよっ!」という感想が浮かんでしまいがち。 だから今此処で本当に体験している現象なのだという実感を得られにくいわけだ。 私を含めて多くの現代人が死んだ後で「死んだ筈なのに何故まだ意識があるんだ?」 という事に驚愕して混乱してしまう。 なので順当に次のステップへと進むには、親切な助言者達(ボランティア)の存在が必須となる。 そうして覚醒のプロセスを経て、霊魂存在としての自分自身を取り戻すと… 私もそうだけど 誰もが驚く。 そもそも私達が 「生(人生)だ」 と思っていたものは… 自由にネットサーフィンしてたネットユーザーが、いずこかのサイトにドップリハマるのと似た現象であり 『濃密な自己投影と感情移入による臨場感・現実感の喚起』 がその本質なのだ。 そういうわけで 「肉体の死」は「魂が再び自由なネットサーフィン状態へと移行する」ようなものだ(本来ならば)。 ネット空間に濃密な自己投影と感情移入をして、臨場感・現実感を見い出すタイプのネト充をリア充は「夢想好きの負け犬」だと嗤うだろうが… 実のところ「この世」という空間もカラクリとしては「ネット内の人気サイト」と変わりはない。 私達が「この世」だと思っていた世界は、そのままズバリ【地球世界】という名称だ。 【地球世界】を含む幾多もの【世界】は「ネット内に数多存在するサイト」と同じように大勢の参入者を誘致し、参入者が集まる事によって成立している。 そして【世界】は、参入者達から創造エネルギーを徴収・搾取する事で成り立っている。 私達は【世界】の中で肉体を持って生きている間 「本来の自分自身である魂の記憶」 を忘れているので、そうしたカラクリを認識することができない。 因みに【地球世界】は他の【世界】と比べて、かなり独特だと言える。 本来なら魂は不老不死。 しかし恐ろしいことに【地球世界】では「魂の死」という「本物の死」が起こる事がある。 魂レベルでの「自殺の名所」 「バンジージャンプの名所」 それが我らが【地球世界】の異名であり評判である…。 しかも普通の【世界】では菌、虫などの下等生物や、食肉用動物などは、いわゆるノンプレイキャラクターであり魂が入っていないのに… 何故か【地球世界】では 「下等生物や食肉用動物に転生させられる」 という罰ゲームが参入者同士のローカルルールで存在していて 【管理者】もそれを認めていたりする…。 (因みに参入者への負担が少ない良心的な【世界】だと人間以外の生き物は全てノンプレイキャラクター…) そうした要因からか【地球世界】では、人々の苦痛や阿鼻叫喚や鬼気迫る焦燥感や恐怖感や恨みや憎しみやらの情念密度が、普通の【世界】と比べてズバ抜けて高い。 そして肉体が死んだ後も直ぐには正常に戻れない人が多い…。 本来の魂の記憶を思い出す事を 【覚醒】というのだが 他の普通の【世界】だと 死んで解放された時に参入者が【覚醒】することはそれほど難しくないのに… 【地球世界】ではとても難しい。 それは深刻な事態を引き起こす。 正気に戻れないまま自由な状態に戻ってしまい、搾取されていた創造エネルギーが手元に帰ってくると 「自分が潜在的に信じていることが、そのまま真実になる」のだ。 ある意味カオスである。 そうしたカオスな力を使いこなす事が出来なければ 自分の妄想が創り出した死後の世界に囚われる事になる。 (例えば煉獄とかに) 難儀なことだ…。 ともかく【地球世界】は 「発狂者量産型の無理ゲー」 という位置付けにある。 参入した魂は規約によって 【地球世界】に雁字搦めに囚われ 創造エネルギーを搾取される。 なので当然参入者達は内部で醜態を晒しまくる。 だからこそ、その中で 【覚醒】する事は それなりの価値がある。 【地球世界】の卒業者達は攻略難易度の低い【世界】に行けば、かなり自分達のスペックが高くなっている事に気づく事になるからだ。 でもそれでいて長年にわたり自分の創造エネルギーを自分で使う事をしてきていない。 創造エネルギーを使いこなす事がとても難しい。 そういったこともあり【地球世界】などの無理ゲー卒業者達は訓練的な準備期間を必要とする。 【地球世界】の卒業者達の多くが次の世界として「魔法が存在する世界」を選択する。 そうすれば【世界】のシステムを利用した「創造エネルギーの利用」を体験できて、それに慣れる事ができる。 上手く行けば【地球世界】での知識やサバイバル精神をも繰り越しで持ち込めて、それを実質的に役立てる為の互換性を「自分で創り出す」事さえ可能になる。 そこには無限の可能性があるーー *************** 【世界】というものが その成り立ちに創造エネルギーを必要としているので 【世界】がそれを 参入者から搾取するからには… 参入者達に対して 「参入中は盲目的であること」 を強いる傾向がある。 【地球世界】のそうした 暗愚性推奨傾向は苛烈だった…。 しかし記憶を持ったままの状態で転生するという事はどの世界でも基本的に出来ない。 特約が必要なのだ。 「特定の図形・紋様・文字」 を目にした時 「特定の条件が揃った」 時などに 【覚醒】が起こる仕掛けを参入する (人間として産まれる) 前にしておかなければならない。 【裏月(リゲツ)世界】の場合は 新規参入者向け特約の中に 「接続承認契約」 というものがあり… それを契約しておくと 上記のような特約が成立する。 【覚醒】するには 生まれる前に準備が必要なのである。 私が新たな転生先として選んだのは その【裏月(リゲツ)世界】。 「魔法が存在する世界」だ。 この世界では 「選ばれし者は成人式の日に神々からギフトが授けられる」 と言われている。 それは覚醒して接続承認契約者である事を思い出し、魔力回路や魔力や魔法行使媒体が得られる事を指している。 この【裏月世界】で 成人式の日にギフトを授かって 魔法使いとなる者には 【地球世界】出身者が多い。 それ以外の人達にしても【地球世界】に匹敵するほどの 苛烈な【世界】で精神的生殺し状態を体験した人が多い。 どうやら皆… 私と同じような事情で 「現実創造力を無難かつ自由に使いこなす為のケア&訓練」目的で 【裏月世界】に転生して 魔法使いになったらしい。 因みに私は成人式の日に得るまでは 自分の前世の記憶など持たない普通の人間だった。 平民ではあるがそれなりにスペックの高い両親を持ち、これといった不自由もなく暮らして来ていた。 なので成人式後の通過儀礼の日に 「前世の記憶」 「本来の魂の記憶」 を思い出した時には 「今世の人生は薄っぺらいな…」 と本気で驚いたのだった…。
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