ナノマシン製使い魔

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ナノマシン製使い魔

2e93b4db-1fd4-44ad-8e05-8458615fb51e 「使い魔創造」 その手法は既にこの世界の中に存在している。 だけどそうした既存の方法は 【管理者】側が用意したシステムの中のオプション的な位置付けのものであり調整や融通の利かないものである。 既存の使い魔は 使役者が自分の「分御魂(ワケミタマ)」を「自分に懐いている生き物」へと埋め込み、元々のその個体の自我を侵食・調伏して従わせるものであり 支配型の使役方法となる。 この方法はシステムに組み込まれた方法なので「魂」というものに関して無知な「非魔法使い(ただのひと)」であっても規定の手順に沿った儀式を行えば誰にでも可能になる。 (勿論「規定の手順に沿った儀式」に関する情報自体が一部の者達によって隠匿されているが) 一方で私がやりたい「使い魔創造」はこの世界のシステム・オプションに依らない方法のものである。 そもそも「魂」というものに関する物理的知識自体が、【覚醒者】以外の参入者には欠けている。 【覚醒者】であっても魂に関する物理的知識を知識としてだけ知っている者と、自分の視覚化能力を通して知っている者とに分かれる。 隠されている情報を看破する事に長けた視覚化能力を「魔眼」と呼び。 物事の本質を看破する事に長けた視覚化能力を「心眼」と呼ぶ。 魂に関する物理的知識を自分の視覚化能力を通して知るには「心眼」が必要になる。 私には「魔眼」のスキルはないけど「心眼」のスキルはある。 ツカサさんの場合は「魔眼」と「心眼」の両方のスキルがある。 なので私達の場合は「魂が極小の光の粒子の纏まり」である事を実感として知っているのだ。 「エネルギーは波動か粒子の状態として存在する」のなら 霊魂はまさしく「エネルギー」なのだ。 霊魂の 波動状態が霊であり。 粒子状態が魂である。 そして魂が「極小の粒子の纏まり」であるからこそ、粒子を分割して「分御魂」を作り出す事が出来るのだ。 システム・オプションに依って分御魂を創り出す場合。 「本体の粒子の総量」を全く勘定に入れずに「規定量の粒子量が抜かれる」形で分御魂が作り出される。 なので使い魔用の「分御魂の粒子量」が人間「本体の粒子量」を上回る事態が発生する場合がある。 そうなると「どっちが主人」なのかが曖昧になり指令系統の混乱が起こるのである。 そのせいで身の程を過ぎた大物を使い魔にしようとして、逆に本体である人間が喰われるという事故が起こる。 使い魔にする生き物の自我は、それなりに強力な個体であればある程強力なので、侵食・調伏が上手く行かない事もある。 無事に調伏したと思っても、使い魔の自我から来る影響は、互換性を保つ為にも完全にシャットアウトは出来ない。 強力な魔物ほど弱肉強食的な「弱い者には従わない」という行動原理に随って生きるので、人間の分御魂もそれに引きずられて自分を本体だと錯覚してしまうのだ。 こうしたシステム・オプションによる使い魔創造の失敗事例はツカサさんの集めた事例データの中にあった。 失敗事例に対して「心眼保持者」の観点からの理論付けと、その理論を証明する実験データは私が彼から迷惑料代わりに頂いた沢山のデータの一部である。 私がやろうとしている使い魔創造の場合は「地球出身の魔法使いである事と、心眼保持者である事が必須条件」となる。 心眼保持者の数が、魔眼保持者の数と比べても圧倒的に少数であることから、この手法は公開したとしても再現性が乏しいので評価される事に繋がり難いだろうと思う。 なのでこの手法は実戦投入によって、その有益さを証明するしかないのだと私的には思っている。 手法としては先ず 「分体に注ぐ粒子量」が「本体の粒子量」を上回る事のないように 自分で計算・管理して分御魂を作り出す必要がある。 そして私が「蜘蛛」の使い魔を創造しようと思ったとするならば。 私は自分が「蜘蛛に転生した過去世」から「蜘蛛の存在性と特質の情報」を読み出さなければならない。 それをナノマシンの能力を借りて分御魂へと刻み込み、指向性を与えて活性化させるのだ。 そして魔力を注ぎ与えて、分御魂の指向性に半物質化特質を追加して、更にナノマシンの能力を借りて「蜘蛛の姿」へと擬態させなければならない。 これによって「仮性生命の使い魔」が出来る、と私は思っている。 実際に実験してみなければ確実とは言えないのだけど、これなら心眼を持つ地球出身の魔法使いはこの手法で安全に使い魔を創造・使役できる。 なにせ 「他の生き物を支配して使役するのではなく、自らの分身をそのまま半物質の仮性生命へと変えて使役する」 ので 「自分が弱ったとしても、歯向かわれる心配がない」 のだ。 半物質であるが故に物理攻撃は自動的に無効化されるし。 勿論、魔力攻撃の場合はその限りではないが。 「使い魔の自己保身能力増強」は次のステップでの課題としても良いと思っている。 取り敢えずは実験的に試作してみる事が肝心だと思う。 この世界には魔法が存在し魔力が存在する訳だが「魔力」には「質」の良し悪しが存在する。 「魔力」として活用出来ないような低品質の魔力は、「魔素」と呼ばれている。 魔物や魔力持ちの人間は「魔力として活用可能な魔力」を自分の中で生産できるから、魔物であり「魔力持ち」なのだと言える。 その品質に満たないものーー 「魔素」しか自分の中で生産できない人間は、タダの人間であり、 同様の動物も又、タダの動物なのである。 しかし言い換えるなら、裏月の全ての生き物の中で魔力なり魔素なりが生産されているという事である。 あと、裏月を含む普通の【世界】では虫などの下等生物は基本的にノンプレイキャラクターであり、その中に「参入者の魂」は入っていない。 虫などの「自我」は、「魂」によってではなく、その器の中を循環している魔力なり魔素なりで形成されている。 器の内部で魔力(魔素)に含まれる「存在性と特質の情報」が耐えず放映されている。 そこで「自動的自己防御反応が起動する」ことで「自我」というものが現れる。 人間にも「自我」は存在するので「自我を持つ存在」が「魂を持つ存在」だという錯覚も起きそうになる。 しかし「人工知能」と「人間」が別物であるかのように 「自我」と「魂」は別物であり 「ノンプレイキャラクター」と「人間」も別物なのである。 一方で【地球世界】では人間以外の生き物である動物にも転生が可能だ。 参入者同士のローカルルールが適用されれはわ虫や菌にまで転生する事があり得る。 (参入者同士の罰ゲーム的なものに関して【管理者】は「民事不介入」的な態度で放置している、といった感じらしい) だからこそ地球出身者は自らの「人間以外の様々な生き物に転生した多様な履歴」から「様々な存在性と特質の情報」を読み出す事が可能になるのである。 それによって「多様な生き物を自分の分御魂を仮性生命と化し使い魔として使役する」ような事も可能になる。 (こうした点を踏まえると【地球世界】はただの無理ゲー・糞ゲーではなく、ちゃんと参入者を強化してくれているのだとも言える) *************** 前述した手法によって私は蜘蛛の使い魔を試作した。 「保護色で天井などに張り付いて、人目につかずに控えておく」事が可能なので、情報収集に特化した非戦闘型の使い魔だと言える。 体も小さく機能も必要最低限という事もあり「魂の粒子量」も微力で済む。 なので複数を創り出せる。 実際に6匹創り出してみた。 使い魔同士で情報共有できるように「情報共有波の送受信」の機能を与えている。 それに加え「ある程度情報が集まったら主人である私へと報告に出向くように」という性質も与えた。 使い魔が放つ情報共有波は心眼を持たない者達にとっては不可視である。 なので波動を線に見立てて図形を描かせる遊びは、私とツカサさんにしか分からない遊びだった。 なので気紛れに使い魔達に「本物の蜘蛛」を取り囲ませてみた。 そして本物の蜘蛛を取り囲む6匹の使い魔に「一筆書きの六芒星」を描くような順序で「情報共有波」を送受信させてみたのだ。 すると本物の蜘蛛が、その場をクルクルと回り出して倒れた。 (まさか死んだのか?) と思いきや、起き上がった時には何故か使い魔の蜘蛛に従うようになっていた。 心眼による観察では 「使い魔達の情報共有波が本物の蜘蛛の器を満たしていた魔素の性質を塗り替える」 ような様子が見えた。 「オセロ」というゲームでは「隅を取ると、その内側を自分の側の色にひっくり返す」事ができる訳だが。 それとよく似た様子だった。 使い魔に仕える本物の蜘蛛が何処まで役に立ってくれるのかも実験したかったので、 同じ手順で手下の本物の蜘蛛を36匹に増やした。 各使い魔に6匹の手下が出来た訳である。 これらの使い魔の「手下」は恐らく際限なく増やせるので「眷属」と呼ぶ事にした。 眷属は情報共有波を送信できないが、 受信は出来るようで、使い魔が出す指示通りに動く。 使い魔に指示されるがままに糸を出し、糸で特定の図形を描かせる事も可能だった。 私はこの性質を利用して、私とツカサさんの情報交換に活用出来ないものだろうか?と考えた。 例えば私が配置先である辺境ラーヘルで危険に見舞われたとする。 それを知らせる為の合図を予め決めておけば、使い魔を通じて眷属にその図形を描かせる事が出来る。 これは逆に彼が危険に見舞われた場合にも同様に報せを受け取ることが出来る。 その為には先ず「図形」毎に「意味」を与えて、図形の言語化を図り、更にそれを使い魔に教え込む必要があるのだけど。 電話回線が存在しておらず、【月影の書】というノートパソコンがあってもインターネットが出来ない世界において、遠くに居る人の安否を知る手立てを何とかして持ちたいと思うので。 チャレンジしてみたいと思ったのだった。
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