巣立ち

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巣立ち

f5b671e2-a56a-4a30-8904-76d581f4d661魔法使い見習生の私達8人が指令書を受け取って6日目。 とうとう皆が出立準備を終えて散り散りになる事になった。 魔法使い見習生は大抵の場合2年間は国境近くの砦での勤務となる。 (いわゆる「御礼奉公期間」である) 皆が見事にバラバラに分かれて配置される事になっているので、この先2年間は「首都における定例報告会に同行して偶然同期生と顔を合わせる」という以外では会えなくなってしまうのだ。 「短い期間だったけど皆同じ地球出身者で、絆というか、魂の繋がりみたいなものさえ感じたのに、もうお別れなんて…寂しいね」 とケイティが言うと 皆が 「「「「「「「本当に」」」」」」」 というように頷いた。 私は地球でいうところのミサンガを8つ取り出した。 「皆で同じブレスレットを付けていられたらな、と思って作ってみたんだけど。受け取ってもらえるかな?」 と言って、一人一人に手渡した。 「うわぁ〜ミサンガだ。もしかして手編み?」 とオリバーが嬉しそうな声を上げた。 「うん、8人全員分同じだよ。日本には『袖振り合うも他生の縁』って諺があったんだよ。 ケイティが言ったみたいに、私達8人は縁があって同期生になったんだと思う。 だからまた皆が偉くなって自由に色んな所に行き来できるようになったら、また皆で集まれるから。 その時まで『独りじゃない』って事を度々思い出せるように。 私達皆の絆を分かりやすく形にしました」 口では上手い事を言ったが (使い魔の蜘蛛の糸を使って何か作ってみたかった) というのが本音であった。 しかも実験的に発信機機能を付けている。 そんな事とは思いもかけないらしく、皆が心からの笑顔で手首に付けていく。 「そうだな、この世界では偉くなればなる程自由が手に入る。それまで頑張らなきゃな…」 とユウヤがシミジミと呟く。 「そうだね。アタシ達8人が将来、この国を、この世界を動かすようになるんだ!って位の野望を持ってた方が頑張れるし。 8人お揃いってのが秘密結社っぽくて良いよね」 とベラが何やら物騒な事を言う。 何故かシズクがウンウンと頷いている。 (おいおい。……でも皆が喜んでくれて良かった。睡眠時間削って夜なべした甲斐があったな…) 研修講師のツカサさんレイカさんケントさんの御三方の所へも皆で挨拶に伺い、それから私達はそれぞれの向かうべき配置先へと随行員さんに伴われて旅立ったのだった。 *************** 随行の職員さんは「旅のプロ」なのだそうだ。 先ず、国内外に存在する転移魔法陣の全ての位置を把握している。 国内外の治安の良い場所、悪い場所の全てを把握している。 国内外の全ての場所における言語と常識を習得していて、何処に居ても悪目立ちしないように振る舞える。 しかも全員が元騎士団所属。 (え?何?この人達って地味な顔してプロのスパイか何か?) と思ってしまうような人種なのであった。 同期生の皆は地元から首都へ来る時にも随行員さんのお世話になっている。 随行員さん達は「悪目立ちせず、旅先で誰の目も引かずに用を済ませる」為に必要な心掛けや技術を私達見習生に教える事も仕事の1つであった。 なので今回私に付いてくれた方は、首都に来る時に随行員が付かなかった分「旅の心掛けと技術を一度で教え込むのに適した人材を」という事でベテランさんが当てられた。 エレクさんという人だ。 「では今から、ここから一番近い転移魔法陣があるショーエル区の旅人の広場まで歩きましょうか。 そこからシュローモー大神殿の転移魔法陣広間まで飛んで、そこからズエーブ領のシャメシュ神殿まで飛びましょう。 後は最寄りの魔法省管轄施設で馬車を調達して頂いて、地道に馬車で移動しましょう。 大手商会が組む行商隊に便乗させてもらえば、護衛を雇うお金も折半で済みますし。良い顔つなぎにもなります」 エレクさんは手早く説明を済ませると、私を旅人の広場まで案内し出した。 「旅人の広場」という名前でありながら、 その広場は一般人立ち入り禁止の場所にあった。 要するに魔法省本部とその近隣の管轄施設の者達御用達の広場なのだそうだ。 各領にある主要神殿とリンクした転移魔法陣が設置されているシュローモー大神殿は魔法省から遠い。 (首都内の北側、南側と反対方向に位置する) なのでシュローモー大神殿へのショートカット目的で旅人の広場が作られたのだとの事。 そうして私達はシュローモー大神殿を経由してシャメシュ神殿へと転移した。 私達がシャメシュ神殿の着信用転移魔法陣に姿を現わした途端に 「来ました!」 と言って、扉から外へ向かった人がいた。 (もしかして私達を持ってた人達が居たって事なのかな?) と訝しく思いながら転移魔法陣から出た。 私とエレクさんが神殿の「転移の間」から出ると、さっき飛び出して行った人が別の人を連れて私達の方へ向かってきていた。 「魔法省本部からラーヘル砦へ向かわれる方々ですね?私はアルガマン商会のザカルと申します」 連れて来られた人が自己紹介をした。 (うわっ、凄いイケメン。これで商人って…。女の人誑かして沢山散財させて、何の罪悪感もなく素で騙してそう…) それが第一印象だった。 そして私達を見るなり飛び出して行った人は 「失礼いたしました。私は此処シャメシュの隣町エシェルにある魔法研究所から派遣されて来ました。 エレクさんも御存知の天才研究員シムラーと申します」 と自己紹介した。 エレクさんが顔を顰めた。 「何故あなたがここに居るんですか?おかしいでしょ?」 エレクさんがシムラーさんに詰め寄った。 「と言うか、私が来ない筈がないと分かってたから、貴方が彼女の随行員を引き受けたのでしょう?」 とシムラーさんがニッコリと笑った。 シムラーさんは私の方に向き直ると 「お会い出来て嬉しいです。 私はこう見えてガーローンの研究所の方々と懇意にさせて頂いておりまして。 エメル氏(ツカサ・サノ氏)に『弟子にしてください』と頼み込んだ事もあったんですよ」 と何やら婉曲な事を言う。 「そうなんですね。私は属名をマートル・メイム。魔法名をイオリ・ミヤジマと申します。 それでシムラーさんはツカサ・サノ先生に弟子入り志願して、お弟子さんになられたのですか?」 と一応訊いてみる。 「いえいえ、断られました。 だから今回サノ氏がご自分の助手にと望まれた才媛がどのような方なのかを、我が目で確かめに来た次第です」 目が笑ってない笑顔でシムラーさんが告げる。 (うわぁ〜何か粘着そうで面倒くさそうな人だな〜…) 「それで早速ですが。ミヤジマ嬢はどんな得意分野がお有りなのでしょうか?」 シムラーさんが興味津々に訊いてきたが 「それを此処で言う気はありません。 まだまだ不勉強で研究の大成は程遠い状態の中で、この度砦勤務となりましたので。 今後も研究を進める事が可能かどうかも目処が立っておりません。 それなのに自分の研究の内容を研究所勤務の方に話してしまうと、こちらの知識が応用されて先に研究が達成されてしまうかも知れないですよね?」 と断る。 「我らは皆、我らがナハル国の発展の為に尽くし精進し合う仲間ではありませんか! 何を水臭いことをおっしゃっているのですか! 貴女の頓挫した研究を私が推し進めて結果を出したとしても、誰の損にもなりません!」 (んな訳ね〜だろ!!!) 「恩師であるツカサ・サノ先生から教わった処世術に『知識と高待遇は互いを生み合う、そのサイクルを維持するように振る舞え』というものがあります。 そして私は先生の教えを忠実に守るつもりでおります。 申し訳ありませんが、私の知識が私を不当な運命を回避する助けになるのだという先生のお言葉を信じて、くれぐれも知識を安売りせぬように振舞う所存でおります」 私がそう言い切ると エレクさんが感心したような顔になり、シムラーさんは苦虫を噛み潰したような顔になった。 そしてザカルさんは… 珍獣でも見るかのように 面白そうな 揶揄するような 興味深そうな キラキラした目で私を見た。 「どうやら本当に貴女はあの方に見込まれた方なんですね。 …頭脳がとか、才能がという訳ではなく恐らく[したたかさ]が頼りにされたという事なんでしょうが。 それでも羨ましいです…」 シムラーさんがションボリして本音を語った。 (したたかで悪かったな!) と内心で罵倒しながら、私はニコリと微笑んだ。 シムラーさんは気を取り直すように 「馬車の用意は出来ております。 アルガマン商会の行商隊と一緒にラーヘルに向かわれるのでしょう?」 と顔をエレクさんに向けた。 「こちらからは護衛を何人雇ってくれてますか?余り商会さんに負んぶに抱っこで便乗するのも後々の事を考えると良くないと思うのですが」 とエレクさんがシムラーさんに尋ねる。 「冒険者ギルドから二人雇ってます。腕利きを雇うのは本来なら馬鹿高い料金を取られるのですが、今回二人組パーティの冒険者が元々ラーヘルに向かう気だったという事で、Bランク二人の料金で、Aランク二人が雇われてくれてます」 ザカルさんも 「こちらが雇っている護衛も4人居ますので、合わせると6人になりますね。こちらも専属で腕利きです」 と言う。 どうやら道行きの安全は確保されるらしい。 しかし馬車に乗り込む前に護衛の人達に「よろしくお願いします」という意味を込めて目礼したら鼻を鳴らされて無視された…。 (なんか悪意的なものを感じるんだけど、大丈夫か?…) *************** 馬車に揺られて、いつの間にかウトウトしていたらしい。 余りな揺れの酷さに脳震盪でも起こしそうな感じだったのに、慣れとは恐ろしいものである。 私の生家のあったネフマドの町からムロー地方中央都市トゥラフィームまでの道はよく均されていて、都市内の門からトゥラフィーム神殿までの道も石畳で舗装されていた。 なので(馬車って本当はこんなに揺れるものだったのね…)と改めて旅の過酷さを感じたのだった。 (そう言えば、ケントさんことタマルさんは身体は女性だったな) (でも今回は随行員さん、商人さん、護衛さん全員男ばっかだよな…。旅って危険だから、普通は女は出ようと思わないだろうし、その関係で男女比率が圧倒的に男性過多になるのだろうね) 思わず溜息が漏れた。 護衛の人達の声が聞こえる。 前方の方からなので商会の専属さん達の声なのだろう。 「ラーヘル砦はこの国にある砦の中でもとりわけ危険な場所だってのに、あんなか弱そうな女の子で大丈夫なのかね〜」 「さぁね、あと数年生き残って育ってくれたら俺的にはかなり好みだし、純粋に嬉しいけど」 「バカ!生き残ってくれたら良いけど、ラーヘルは魔物の出現率が国内一なんだぞ」 「そうそう。何の危機感もないお嬢ちゃんが騙されて連れて来られて、それで死なれたら、俺だったら寝覚め悪くて敵わん」 (……なんか、恐ろしい話が聞こえて来たけど、きっと幻聴なのだろう…) 私は不安に思いながら馬車から顔を覗かせて、そっと外を見やった。 途端に物騒な声が響いた。 「盗賊だ!!!!」
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