124人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ
決闘?
「成る程」
アイル様が眉間に皺を寄せた。
「その話が何処をどう間違って騎士団の連中からの『武闘大会を開いてくれ』という要望に繋がるのか私には全く判らん」
「私にも判りませんよ!」
アイル様と私の問答も刺々しくなる。
「恐らく『強い男が好き』とか『決闘で決着』云々の辺りから『闘って勝てばヤラせて貰える』という御都合主義的な解釈へと発展していったのではないかと…」
と秘書さんがいつもの事務的な口調で淡々と語る。
「アホか!却下だ!却下!」
アイル様が呆れつつキレた。
「取り敢えず当の二人を呼べ。彼奴らはどうしてる?」
「見当たりません」
アイル様と秘書さんの問答に不安を覚える…。
(見当たらないって、一体何処で何してるのやら…)
「実は魔法使い二名も見当たらない状態でして…」
「…それはやはり」
「ええ」
アイル様と秘書さんが私の方を見る。
そしてアイル様が口を開いた。
「決闘かも知れんな」
「はあ?」
(それはあまりにも短絡的過ぎる推理だと思いますよ?)
「何故ハーダル様とホデシュ様が見当たらないからといって決闘って事になるんですか?」
(何故そうなる?)
「魔法使い二名も見当たらないからだ。敵同士ならいざ知らず。
味方同士で何かを取り決める時に行う決闘の場合は魔法使い二名が立ち合うのが決まりだ。
即死しない限りはヒーリングで回復出来るからな」
アイル様が味方同士で行う決闘の作法に関して説明してくれた。
「即死って…あり得るんじゃないですか?ハーダル様ですよ?
アイナバアルを瞬殺で肉ミンチに変えた技を使ったら、いくらホデシュ様でも即死するんじゃないですか?」
「その逆もあり得る。ホデシュにも相手を瞬殺する技がある。親友を殺してでもお前を得たいと思った方がそうした技を出す可能性は有る」
…幾ら私が無責任で「他人のする事は全て当人の自己責任!」と言い切る冷血人間であっても、流石に自分の優柔不断さが招いた事態に対して「私はなにも悪くない!」と主張する真似は出来なかった。
「…申し訳ありません。私のせいです…」
と神妙に謝るしかなかった。
ラーヘルにとって大事な二人の内のどちらかが死ぬかも知れないのだ。
それは私が死ぬよりも余程損失が大きい。
謝った所で事態に収集がつく訳でもない事は解っているけど、謝る以外に今の私に出来る事など無い気がした。
「お前の使い魔の砦内パトロール係の映像を今直ぐ取り寄せられるか?
出掛ける前の映像で何処に行ったか判るかも知れんしな」
アイル様が冷静に指示をする。
「判りました」
私は直ぐに使い魔を呼び寄せ、件の映像を探し出した。
「この映像で何か判るかも知れません…」
そう言っている最中に扉の外で声がした。
ゆっくりと扉が開いて
ヨロヨロとホデシュ様が入って来た。
真っ青な顔をして近づいて来て、凭れ掛かるように私に抱き付いた。
「やっと終わった…」
という呟きを聞いた途端に胸が苦しくなった。
「ハーダル様は?…」
「ああ、無事だ。生きてる。ただ私も奴も魔力切れだ…もう動けない…」
そう言ってホデシュ様が崩れ落ちそうになった。
それを支えようとして私まで倒れそうになる。
秘書さんが素早く私毎ホデシュ様を支えてくれたので、何とか下敷きになって倒れる事態は免れた。
「このバカどもからの事情は明日聴く事にするが、魔法使い二名は今直ぐ連れて来い!」
とアイル様が言った。
扉の側に居たらしく、ダマーさんとハリーさんは直ぐに入って来た。
すれ違いざまにダマーさんが
「ホデシュ様に着いていてあげなさい。彼が勝者ですから」
と囁いた。
その声は秘書さんにも聴こえたらしく、秘書さんが私を見て頷く。
側仕えの人達が呼ばれて、私は一緒にホデシュ様の部屋に行き、彼が目覚めるまで傍らで待つ事になったのだった…。
最初のコメントを投稿しよう!