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同期生達
慣れ親しんだ家を出る事になり、予想もつかないような新しい環境に放り込まれる場合。
誰もが落ち着かない気分で、期待と不安を交互に感じながら来るべき時を持つしか無いのだと思う。
ナハル国は大雑把に五つの領から成る。
王領ノーフェト領。
北西のドーブ領。
海に面した西側のエラーム領。
国の東側のズエーブ領。
国の南側のドゥロール領。
ドゥロール領は大雑把に二つの地方に分かれる。
南部がテーマン地方。
北部がムロー地方。
私が住む町であるネフマドはドゥロール領のムロー地方にある。
北上すればノーフェト領に入る。
ノーフェト領は南部がレヘム地方。
北部がミシュマール地方。
ムロー地方からノーフェト領のレヘム地方へと北上した辺りに首都ガーローンがある。
旅程としては
「転移魔法陣を利用する」
という事なので、
馬車で北上する必要はなかった。
ネフマドのある同じドゥロール領内の神殿に向かい、神殿にある転移魔法陣を利用して、首都ガーローンにあるシュローモー大神殿の転移魔法陣へと転移する。
次いでシュローモー大神殿から更に魔法省施設のお膝元であるショーエル区の旅人の広場へと転移する。
という事だった。
首都にある魔法省本部には、魔法使い見習いと認められた新成人は、取り敢えず一度は必ず出向かなければならないらしい。
魔法省管轄の様々な組織が国中の彼方此方に各領に跨って存在している。
研修を終えた新成人の魔法使い見習生は国内に八つある「砦」にそれぞれ配置され、そこで勤務・生活しながら、砦の魔法使い長に勤務態度や生活態度をチェックされる。
その報告書が魔法省管轄組織へと先ず送られ、それらの情報は結果的に魔法省本部へ集約されることになる。
しかし何はともあれ研修を受けて「仕事が出来る状態」にならなければ話にならないらしい。
その為には魔法行使媒体を神(管理者)から拝領しなければならない訳だが。
王城の地下にある拝領の間を使用させてもらう事になるので、それによって新魔法使いは皆「国から恩を受けた」という形になるらしい。
ラノベなんかの異世界転生モノだと
魔法使いは自由に冒険者になったりしてるのがテンプレだけど、
この世界では
マトモな教育を受けた正規の知識と専用のアイテムを持つ魔法使いは全員が
「国家所属の謂わば公務員扱い」なのだそうだ。(強制的に)
魔力があっても、転生前に「魔法使いになる契約」をしていない人達は、所謂「魔力持ち」と呼ばれる存在になる。
転生前の契約のない「魔力持ち」では拝領の儀式を行っても「魔法行使媒体」が得られない。
魔法行使媒体の代わりに魔道具を利用して魔法もどき(代替魔法)を行う事は可能である。
此国の貴族は殆どが「魔力持ち」である。
だからこそ彼らは魔道具と魔法の知識を独占している。
平民の中にも「魔力持ち」は生まれるが、魔法の知識や攻撃魔法用魔道具を得られる可能性は限りなく低い。
しかし何処かで得た知識を元に半端な知識の平民の魔力持ちが「野良魔法使い」になってしまう事があるらしい。
そういった人達は知識も魔道具もなかなか手に入らず、魔力を所有していても大した事は出来ない。
なので半ば放置されていて、市井に紛れて占いなどをして身を立てているらしい。
ドゥロール内のトゥラフィーム神殿へと向かう途中の馬車の中で、こうした「基礎知識」を学んだ。
ガイドは先日来てくれたダーロウムさんことレイカさんではなく、
タマルさんという女の人だった。
レイカさんが(生物学的には)男性なのに、とても口調や態度が丁寧で女性的だったのに対して
タマルさんは女性なのに口調が荒く、自分のことを「俺」と言っていた。
それでいて
「女同士じゃねえか」
というセリフを度々口にして、
私が用を足す時に覗こうとしたり、
一緒の寝袋に入ろうとしたり…
何か色々と違和感のある人ではあった。
流石に「私とは合わない」と思ったので、宿場町に差し掛かって宿を取る時にも
「部屋は別でお願いします」
と宿屋の女将さんにお願いした。
タマルさんも、宿屋の主人も
「金がもったいない」
と言ってたけど
助けを求めるような目で女将さんに訴えかけると、女将さんが味方になってくれて、やっと要求が通った。
タマルさんと同じ部屋だと、体を拭いたり着替えたりといった作業を行う気にはなれない、と思っていたので本当に助かった。
タマルさんはガサツで馴れ馴れしいのだけど、実に世慣れていて、国の情勢や地方の情勢にも詳しい。
相部屋を断って気を悪くされるのも困る。
宿屋の女将さんが
「旅慣れない若い子がリラックスできるように一人きりになれる時間を与えてあげるのも年長者の気遣いとして大切よ」
と、やんわりタマルさんを諭してくれたのが有難かった。
私は15年間産まれ育った町から出た事が無かったので、こうして旅に出るのは正直心細い。
だけど前世の記憶もあるせいか、海千山千なタイプの人に対しての警戒心は、心細さとか誰かに頼りたい気持ち以上に自分の行動指針に組み込まれている。
なのでタマルさんに対して頼って甘えるとか、何でも言いなりになるとか、そういった方向性に対しては
「うわぁ〜無いわぁ〜〜」
と思ってしまったのだった。
ガーローンに着くまでの間
そうやって様々な事を教わりながら、それでいて警戒心を持ち、それでいて気を悪くさせないで済むように気を使わなければならなかった。
色々と気を張る旅だったが、やっと到着した頃には心身ともに疲れ果てていた…。
魔法使い見習いが研修期間中に宿泊する場所として魔法省の独身寮へ連れていかれた。
魔法省の独身寮に就くと早速、国の彼方此方からやって来た魔法使い見習いが集まっていた。
今期は全国から8人輩出されたらしく
「いつもより多い」
のだそうだ。
少ない時は1、2人。
多い時で7、8人。
平均的には4、5人。
といったところで、
通過儀礼による選出が年に二回なので
1年間に8〜10人魔法使いが誕生している計算になる。
今期は8人と聞いていたが、
今集まっているのは私を含めて6人だ。
あと2人はまだ着いてない、ということなのかな?と思いつつ他の人達の様子を目を向ける。
タマルさんは私の背後で
「やっぱ目ぼしいのがいないな…」
とか何とか呟いている。
6人のうち、女子はわたしを含めて4人。
一番近くに居る子に話しかけようとして近づいた時、バタバタと足音が近づいてきた。
何だと思って振り返ると、レイカさんが目を吊り上げてタマルさんを睨みつけて鋭い声をあげた。
「あなた!一体どういうつもりなの?!」
「はぁ?何が?」
タマルさんは呑気そうに鼻を穿りながらレイカさんを横目で見て返事をした。
「見習いを迎えに行くのは職員の役割だって去年も言った筈よね?何であなたが自分の仕事放り出して行ったのよ!あり得ないでしょうが!ーーとにかく来なさい!始末書ものよ!」
と言うと、レイカさんはタマルさんの首根っこを引っ掴んでズルズル引きずって去って行った…。
(挨拶する暇も無かった…)
気を取り直すことにして
近くに居た女の子に
「あの…今期は8人って聞いてたんですけど、あと2人はどうなってるか分かります?」
と訊いた。
彼女は話しかけられるとは思ってなかったみたいで驚いたように目を見開いて
「……ええっと、……あの、私はそういった事は何も…」
と言って俯いてしまった。
(あ、何か気まずい……)
と思っていたら
少し離れた所にいた女の子が
「まだ着いてないみたいね。……寮の部屋割りもしなきゃならないし、性別だけでも分かると、先に部屋を決めてしまって私達も入室して落ち着けるんだろうけどね〜」
と話を受け継いでくれた。
それを聞いてた男子が
「確か8人中、女子が5人、男子が3人って話だったと思う。だから後の2人は女子1人、男子1人だろうね」
と教えてくれた。
「それなら女子は女性棟の3人部屋と2人部屋を一室ずつ、男子は男性棟の3人部屋を一室借りれば良い事になるわね」
と、先程の女の子が話しを引き継いで纏めてくれた。
そこに丁度、職員の男性がやってきて
「お待たせしております」
と声をかけてきた。
「寮の準備が整いましたので、荷物を持って入室してください。女性棟は女性職員が案内しますので、女性の方々はもう暫くお待ち下さい。男性の方はこちらへどうぞ」
との事だ。
(女性棟には女性が案内するって決まってるのなら、何でタマルさんが居る時に案内してくれなかったんだろう?)
と、ふと疑問が脳裏によぎった。
しかし数分後にはエプロンをつけた掃除婦風のオバサンがやってきて案内してくれた。
「調理師や掃除婦は全員が女なんだけど、ここって全体的に女が少ないのよ。ゴメンナサイね、なかなか仕事に区切りがつかなくて案内が遅れてしまって…」
とオバサンが申し訳なさそうに事情を説明する。
「それって女性職員や女魔法使いが少ないってことですか?」
と、私がしたかった質問を他の子がしてくれた。
先刻も積極的に纏め役をしてくれた子だ。
「職員はそもそもエリートだから殆ど男性だし、女魔法使いはすぐ結婚するから、独身寮は何処も女性棟はいつもガラ空き。そのせいで人を雇ってないから、案内できる人がいないのよ」
とオバサンが言う。
「だから私みたいな掃除のオバチャンが何故か職員さんの代理で急遽案内人を兼ねなきゃならないのよね〜」
と続けて苦笑いする。
要するに
新成人の魔法使い見習いが研修期間中に利用するだけで、普段は利用者がいないので人件費をケチってて、掃除婦に職員のモノマネをさせてる、という事らしい。
(大丈夫なのか?この施設?……しかし、アレ?ちょっと待てよ?)
「あの〜……タマルさんっていう女魔法使いさんがいると思うんですけど、彼女はここを利用してないんでしょうか…?」
と私が訊くと
「誰それ?」
とオバサンが首を傾げた。
「……ん?あぁ〜!…もしかしてケントさんのこと?確か俗名はそんな名前だったわね。……騙されちゃダメよ!あの人は身体は女だけど、前世が男だったとかで、中身は男なんだから!」
「「「「ええ〜〜!!!!」」」」
私を含む4人の女子全員が固まった。
まさかそんなパターンで伏兵の危険人物がいるのか、と。
(うわぁ〜……どうりで旅の間挙動不審だった筈だ。自分の直感を信じて距離を置いてて良かったぁ〜)
(それにしても何故…誰もあの人を止めてくれなかったんだろう…。いや、多分レイカさんは止めてくれてたんだろう、先刻の会話から察するに。でももしかして今までにも被害が出てるんじゃないの?)
少しコワイ想像をしてしまって、慌てて首を振って、コワイ想像を振り払った。
内心、誰と相部屋になるのだろうか?
とドキドキしていたのろだけど。
「誰と誰が同室になるのか?」
という問題は実にアッサリと解決してしまった。
「部屋が沢山余ってるから、一人一部屋使ってもらって構わないわよ。いきなり知らない人同士で気を使ってたら、自分のペースで勉強も出来ないだろうからね〜」
とオバサンが言ってくれたのだ。
「厨房の料理人さんからの言伝で気をつけてもらいたいって言われてるのがーー食事を外で食べるから要らない、とかいう時に急に言われたり連絡が無かったりしたら困るという事。食堂にある予定表のボードに自分の予定を大雑把にでも良いから書き込んどいてもらいたい、って話だったよ」
「あと、これは私からの注文。洗濯物は一日置きに回収してるから、部屋のドアの傍にある洗い物カゴを二つずつ用意してるのを使ってね。汚れ物を入れておくカゴの方には黒いリボンが付いてる方で、洗い終わったのを入れるのは白いリボンが付いてる方。間違えないようにね」
と注意事項をザッと説明すると、サッサと自分の仕事に戻っていってしまった。
オバサンが去ってしまった後、取り残された女子4人は少し気まずい感じで、それぞれに部屋を物色し自分の荷物を運び入れていった。
(結局、自己紹介とかもしてなかったけど、これで良いのか?……)
他の人達の名前も知らない状態で明日から一緒に研修を受けていく、というのもやり難い気がするので
(夕食の時にでも自己紹介をし合うように提案してみよう)
と思う事にして、あとは黙々と運び入れた荷物を解いて部屋に収納した。
(タマルさんの話通りなら多分、明日にでも王城の地下にある祭壇に連れていかれて【覚醒者】用アイテムを獲得できる筈だ。地球出身者の場合は獲得したアイテムがノートパソコン型の端末に変化するって話だったし。それに応じて地球出身の魔法使いの仕事の大半がPCを使った事務作業や、空間情報を書き換えるプログラミング作業って事らしいから、出身を勘定に入れた人事を割り振ってもらえるって事なんだろうな)
と少し期待に胸を膨らませて、夕食までの時間を過ごした。
***************
「俗名はマートル、表名はイオリです」
夕食時にしようと思っていた通りに自己紹介をした。
最後の1人の子も夕食時間の少し前に到着していた。
「俗名はシェン、表名はケイティです」
「俗名はラーゼー、表名はシズクです」
「俗名はエシュ、表名はリンです」
「俗名はエリル、表名はベラです」
積極的に纏め役をする子がケイティで、私が始めに話しかけた子はシズクだった。
寮の案内の時に会話に加わってくれなかった大人しめの子がリンで、遅れてきた子はベラ。
ケイティは物怖じしない性格らしくて、早速
「女魔法使いは売り手市場」
みたいな事を言い出して、今後の将来の抱負を述べていた。
魔法省の職員はエリート揃いなので狙い目だとか。
貴族に見染められて側室になる人も多いとか。
「結婚」に関する話題に執着していて、あまり魔法使いの仕事に関しては興味を持っていない様子だった。
シズクは大人しいのかと思ったら、
結構空気を読まない失礼な発言をかまして場の空気を度々凍らせてた。
多分そういう人なのだと思う。
リンはやはり無口。
喋らないので、どんな人なのか分からない。
ベラは遅れてきた割に何故か表情も態度も太々しい。
前世で何をしてたのか知らないけど、女兵士とか、水商売とか、そういうのが似合いそうな貫禄。
仲良くなれるのかどうかは判らないけど、腹の探り合いを兼ねた自己紹介兼自己アピールの時間は恙無く終わった。
明けて翌日。
予想通りに王城の地下にある祭壇に向かう事になった。
何故か女子は頭からスッポリとヴェールを被せられた。
引率には職員さんではなく魔法使いのレイカさんが付く事になった。
多分「魔法陣の起動」に魔力を注がなくてはならない、とかいうパターンの場所なのだと思う。
引率魔法使いがタマルさんではなかった理由の一つには、昨日小耳に挟んだ「始末書」云々の事情があるのかも知れない。
聞いてみたい気もするけど、聞くのも怖い気がしたので、その辺には触れずに普通に挨拶をすることにした。
「おはようございます。レイカさん」
「おはよう。イオリさん」
「あの、ヴェールって私初めて被るんですけど、やはり王城という場所のマナーとして女子はヴェールを着用しなければならない、という決まりがあるという事なのでしょうか?」
疑問に思っていたので訊いてみた。
「あ〜……いやいやマナーって事じゃないんだけど、面倒が極力降りかからないようにという意味で女魔法使いは王族や貴族のいる場所ではヴェール着用が推奨されてる、といったところかしら?」
「推奨っていう事は必ずしも着用しなくても良いということですか?」
「ええ、着用しなくてもマナー違反と見做されたりはしないけど、面倒に巻き込まれても自己責任だという事で、これといって周りから助力は得られないものと了承してもらう事になるでしょうね」
「面倒事ですか…」
「口にするのも恐れ多いのだけど、高貴な方々の中には私達の予測の斜め上を行く不条理を下の立場の者に降りかけようとなさる方もいらっしゃるということです。触らぬ神に祟りなし、ということね」
(つまり、王族や貴族の中には女魔法使いみたいな弱者をカモにして喜ぶ基地外が紛れ込んでるってことなのでしょうか……コワイな…)
私とレイカさんのやり取りを聞いていた周りの者達も、私と同じ感想を持ったらしくて、皆急に顔色が悪くなっていた。
先程までヤル気に満ちていた場の雰囲気が一変していた…。
目的の祭壇は、洞窟の奥で見た台座と似ていて、台座の上に同じように水盤が置かれていた。
台座を取り囲む魔法陣も似ていたが、こちらの方がより複雑だった。
レイカさんが手順を説明する。
「魔法陣を起動させる祝詞は私が唱えます。なので皆さんは自分の番になったら、自己責任で魔法陣と水盤に魔力を注いでください。
魔力が無事に満たされた状態になったら、次の手順実に移ってもらいますが。その際の注意事項として、今朝教えた『力の言葉』の呪文の固有名詞部分に自分の表名の魔法名を組み込んで唱えてください。
そして一番大切な事ですが、表名の魔法名を唱える際に真名の魔法名を強く念じてください。
真名の方はパスワード代わりになりますので、誰にも教えず、誰にも聴かれないように、口に出さないように、あくまでも念じるだけにしてください。
たまに間違えて真名を口に出して表名を念じる人がいますが、そういった失敗の無いようにお気をつけて」
後は呼ばれた順番通りに「拝領」の儀式を受けた。
初めて見る男子が一番最初に名前を呼ばれた。
次が私だった。
レイカさんが祝詞を唱えると魔法陣が微光を発し出した。
陣の外円の出入口に該当する箇所の前で一旦止まり、入口を開く所作をして陣の中に入る。
次いで、開いた入口を閉じて、陣の中を魔術的に独立した空間へと変える。
そしてその状態から床に手を付き、魔力を注ぎ込む。
魔法陣の紋様が複雑なのだけど、陣は一筆書きで描かれているらしく、魔力が行き渡っていく。
祝詞で青っぽく微光を放っていたラインに沿って柿色っぽい魔力が広がって、ラインの色を輝く白光へと塗り替えていく。
陣のラインの全てに魔力が行き渡ったら、今度は水盤に向かって魔力を注ぎ込む。
すると蛍のような光の浮遊物が無数に舞い上がって、陣の中を、陣の外とは一線を画す空間へと変えていく。
水盤の水から淡い光が放射されて、水面より拳二つ分くらい上の空中にタッチパネルの画面っぽいものが浮かび上がった。
教えられた『力の言葉』の呪文を唱えると、文字が画面に表示され出した。
レイカさん謂く「規約承認の確認画面」に該当するものらしい。
呪文の中には承認確認を決定する文言も組み込まれている。
呪文の終わり近くの部分で名前の登録がある。
表名のイオリ・ミヤジマを名乗りながら、自分の魂の名前に因んだ真名を念じる。
すると蛍のような光の粒の一つが水盤の水の中に飛び込んだ。
そして黒々とした異空間への入口めいた水の中へと光が呑み込まれて消えた。
直ぐに別の光が水の中に出現して、水の中から出てきた。
その光の粒がタッチパネル風の画面をすり抜けて画面の上に来ると、急に物質感を持って、パワーストーンのような石になった。
その石を掴むと、暑くも冷たくもないけど、石はドライアイスが気化するように煙を上げて溶け出した。
煙が私の身体の周りに纏い付くかのように漂い、そして身体に吸収されるかのように消えていった。
徐々に魔法陣の中を舞い踊る光の粒が一つ一つ消えていって、数分で完全に消え去る。
そして私が魔法陣から出て、魔法陣の出入口を閉めると、魔法陣起動の祝詞の効果も消えて、そこは唯の祭壇に戻った。
皆の「拝領」の様子を客観的に見ると、どうやら光の粒によって魔法陣内の様子は外からは見えなくなるようだった。音も遮断されている。
ただ「魔眼」や「魔耳」を持ってる人には筒抜けになるらしい。
それらのスキルは、地球のインターネット空間でハッキングスキルを持っていた人達に発現しやすいスキルなのだそうだ。
その手のスキル持ちがいるのだという事を想定して行動していないと、「乗っ取り」されかねないとの事。
同じ地球出身の【覚醒者】同士で、そんな馬鹿な!と思いそうなものだが…
自分自身を振り返ってみるなら、
【地球世界】退会の手続きの一環として[カルマ清算の為の最後の転生]は誰にとっても過酷なものになるものの、それを乗り越える事が
=魂の本質の協調性や善良さを保証するという事にはならない。
という事がよく解る。
(苦労したからって、性格が善良になるという事にはならない、って事を忘れちゃいけない…)
なので本当に「すぐ隣にいる人達が実は基地外かも知れない」と疑う気持ちを心の片隅にでも常に置いておくべなのだと思う。
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