・碧淵【みどりふち】

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・碧淵【みどりふち】

 この暗いところに転がされてから、どれほど経つのだろう。  潮騒は聞こえない。磯の香もしない。慣れ親しんだそれらと離れてから、随分と経っているような気がする。  渇きと餓えは過ぎ果てて、すべてがぼんやりとしていた。寒いのか暑いのか、痛みに痺れているのか倦怠に溺れているのか、判断がつかない。息継ぎのような短い目覚めと、その空隙とを繰り返す。落ちることを指向する瞼を抉じ開けていると、黒いはずの闇が白く霞んだ。  そんな有様であったから、にわかに漂ってきた香はあまりに芳しく、脳髄を痺れさせ、目にうつるすべてを蕩けさせた。その香は頭上に置かれたものから滲み出してきていた。  あかりが灯る。這いつくばっているおれの目の前だけを、燭火が拓く。床板の朽ちた狭いところに、突き合わせるようにして並んでいる幾つもの膝があった。  香が密になる。  頭上にある箱の蓋があけられた。節会の宴で見るような箱だった。箱のなかには半分ほどの嵩まで氷が詰めてあった。燭火にきらめく氷を透かして、内塗りの朱が燃えていた。氷には白い小皿が浮いていた。冷えた白に吸いつくように、刺身とも生肉ともつかないものが盛ってあった。ほのかに桃色がかった、白身の魚の肉であるようだった。  これはくらうことのできるものだ。  そのようにとらえた瞬間、伏していたからだは芳香のもとへと跳ねた。どのように四肢をつかったのかもわからぬまま、小皿に盛られているものを鷲掴み、貪った。舌の上でころがすことなく丸呑みにした。久方ぶりに嚥下しようとしたものだから、のどの奥が突き上げられ、痛みに噎せた。まなぶちが熱を帯び、潤んだ。氷の解けた水を、融けかけの氷を、床をひきずる己の髪を食むこともかまわずに、直に啜り、噛み砕く。齧った氷とともに胃の腑へと落ちていく香気が、それが美味であったことを伝えてくる。  腹のなかにたゆたう香が、目覚めの断絶を連れてきた。  泥のようなだるさが押し寄せてくる。からだを起こしていることができなくなって、瞼をあけていることができなくなる。上下も左右もわからなくなりながら崩れ落ちる。近くで行き交っているはずの声を、遠くに聞く。知らないことばではないはずなのに、声の意味するところがとらえられない。ただ、安堵のようなものと嘲りのようなものが踊っているのはわかる。それらは満足に包まれている。  倒れた弾みに燭火を消したのだろう。瞼を透かしてくる光はない。  暗いところで目が覚めた。一筋の光が暗闇を貫くように走っていた。閉められている戸の隙間から射してくる光だった。  身を起こしてみる。からだは重いが、動けないわけではないようだった。この身をくるんでいたやわらかさから、転がされているのではなく、寝かされていたことを知った。  かすかな香が舌の根に残っている。ここはどこであるのだろう。幾つもの膝が並んでいたところとは違うところであるのか。どこの誰の意図によりこうしているのか。なにひとつわからない。  水音がする。せせらぎではない。木々の葉のそよぎのなかに、魚の跳ねるような音がする。  暗闇の外から、かすかに、あの香がしたような気がした。  立ち上がって、光の縦筋へと近づいてみる。素足で踏み出した床は、ひやりとしていて、すべらかだった。板張りであるらしい。光に指をかけて戸を引きあける。明るさが溢れ、すべてが白に塗り潰された。眩さにうろたえながら、光の奔流へと歩み出す。  水の香を孕んだ風が、肌を冷やして抜けていく。  眩んだ目が明るさに馴染んでくると、眼前に広がる池と、池を抱くように建っている家屋と、家屋を包みこんでいる樹木の緑があらわれた。目にすることができる範囲ではあるが、濡れ縁のようなものが白木の柱列を囲んでいる。寝かされていた室も、それらとひとつづきの屋根の下にあるらしい。池に眼を滑らせると、水底へと降り注ぐ陽に、魚群が鱗の金をきらめかせていた。  静けさにうろたえて眼を彷徨わせていると、低いところを金色が過ぎった。柱に凭れ、肩に緋衣を掛けて座っている後姿が、すぐ先の曲がり角にあった。吸い寄せられるように脚が動いた。よろめきながら数歩分の足音をあげただけで、金色の傍らに立つことができていた。  あらためて、それを見下ろしてみる。身に帯びる金色のすべてが陽に透けている。立ち尽くしていると、おれと目を合わせるためか、それはわずかに頤を上げた。こちらをとらえた澄んだ碧が、陽を呑みながら、微笑をたゆたわせていた。 「あなたがここに来てからは、陽が沈んで昇ることが、何度か。からだのどこかが痛むようなことはありませんか」  気遣わしげな声音に、首を横に振る。髪がばさばさと揺れた。陽を浴びているからか、見慣れているはずのその色は、覚えているよりも淡かった。 「ならば、良かった」  おれを映していた碧がやわらいだ。張り詰めていたものが、安堵によって蕩けたようだった。 「あんた、は」  相手は何度か瞬きをすると、こたえをさがすように眼を泳がせた。 「さかな、でしょうか。この地において、家主の代わりのようなことをしているものです」  透きとおった流れに遊ばれる、水草のゆらめきのような声だった。やわらかな水に沈んでいくような心地がする。  まどろむようなやすらぎを破ったのは、棘を帯びた少女の声だった。 「金鱗!」  忙しない足音が近づいてくる。咎めているとも案じているともつかない呼び声に、さかなは困ったようだった。こちらへと歩んでくる少女を正面に見る。陽を撥ねつけるような白を印象とする少女だった。少女に詰め寄られたさかなは身じろぐこともできないらしい。 「おとなしくしていなければ駄目でしょう」 「ずっと寝床に籠もっていては、気が滅入ってしまいます」 「それならなおさら声をかけなさい。まだまともに歩けもしないのに」 「あちら、目が覚めましたよ」  さかなが眼でこちらを示した。少女はこちらを睨んだ。 「寝ていたはずでしょう。大事をとって安静にしていなさい」  険しさの募っていく少女の声を、のんびりとした声が遮る。 「ところで、戻らないのですか」  諦めたように、少女は息を吐いた。陽射しのなかで金色がゆらめく。立ち上がったさかなが声をほうってきた。 「ここからは出ようとしない方がいいですよ。陸にあっては衛士に斬りつけられるだけです」  少女に支えられて泳ぎ出したさかなが、ゆっくりと遠くなっていく。  風が緑をざわめかせる。その音に誘われて、池の対岸へと眼が移る。しなる枝葉の間に垣のようなものがちらついている。  目に付かないようにされてはいるが、ここは囲われているということか。  もといたところに戻ろうとすると、数歩を歩くにも足がもつれた。縋るつもりなどなくても、あたりのものに手をつかないとよろけてしまう。  しばらくはおとなしくしているしかないようだった。  はじめは重湯、次には薄い粥。食事は次第にかたちを得て、具が添えられるようになっていった。  さかなはしばしばあの角に姿をあらわした。さかなはいろいろなはなしをしてくれた。怪我をしていたのかという問いには、さかなは治りが早いものなのですというこたえがあった。ここはどういったところなのかという問いには、山の頂にあたりますというこたえがあった。 「この池は川のはじまりなのです。山をおりていくと里があります。里びとによって、ここからが里山であるという目印とされているのが、その川です」  陽だまりに漂っているさかなと同様に、食事をはじめとして身の回りの世話をしてくれている少女も、いろいろなことをはなしてくれた。ずっとここで暮らしているのかという問いには、里の生まれであるという答えがあった。どうやって暮らしているのかという問いには、要るものは里人が揃えてくれるという答えがあった。 「山をおりていくと、橋に至るよりも手前に廃屋があるという。風雨を凌ぐことくらいはできるらしくて、かつてはうつわをつくる者が住んでいた。そこが、ここに来るまで、君が放りこまれていたところ」  その日はよく晴れていた。池を見遣ると、陽が照り映えて、鏡のようだった。まばゆさに目を眇めると、波紋のようなものが見て取れた。透きとおった水塊が金色をとざしていた。 「よかった。また、泳いでいる」  傍らにいた少女が呟いた。   あくる日は、少女の目を盗んで、門のところまで行ってみた。門をくぐるまでもなく、交差された槍に行く手を阻まれた。またあくる日は、茂みを掻き分けて、垣のそばまで行ってみた。垣に手をかけるまでもなく、飛んできた矢が肌をかすった。的を避けるつもりはないようだった。 「代わりを望んだりはしていないよ」  矢を射掛けたものから報せられたのだろう。少女に叱られた。 「賊に襲われた商人が、里人に助けられたことの対価として差し出した子供は、このあたりのものではないかたちをしていたと、そう聞いた」  少女はこちらの目を覗きこんできた。 「君の目は、新芽みたいな、やわらかい色をしている」  その頃には、寝床を抜け出して散策することを、少女が咎めることもなくなっていた。  魚群の泳いでいる池を、淵に沿って歩く。樹木が途絶え、緑陰がなくなると、まばゆさが迫ってきた。  陽にかざした己の手に、うろたえる。こんなにも淡雪が透けたような肌をしていただろうか。 「散歩ですか。晴れていますから、散歩をするにはよい日和です」  声につられて池に眼を落とすと、金色のさかなが浮いていた。 「泳ぎませんか」  ためらっていると、さかなはゆるやかに身を反転させた。角のない波が広がって、金色が遠のいていく。深く息を吸って、水に潜った。水のなかは驚くほど澄んでいた。水草に降りかかる光の網を、先をゆく金色が抜けていく。小魚の鱗が陽にきらめく。池の底から湧き出す水が、透明な静止をゆらめかせている。衣が脚に纏わりつく。水を掻く手の甲が翳りを覚えて、緑陰に入ったことを知る。暗さが重なっていき、水嵩が増していく。もう底に足はつかない。深みへと潜っていく金色は、鈍く、鮮烈に、輝いている。   水の流れに裾が靡いた。水塊に背を押されている。水の向かう先では暗さが増している。  このままでは吸いこまれる。  水流に抗おうとして、水を蹴る。脚が縺れて、うまくいかない。足掻く四肢ごと水塊に抱きすくめられる。吸いこむものをもとめてのどを反らすと、真上に双の碧があった。さかなに腕を掴まれて、曳かれるままに泳いでいく。陽のあたたかさが斑に降ってくる。急速に水面が近づいてきたから、目を瞑る。落水の騒ぎに耳を塞がれる。頭頂から水の幕が剥がれ落ちていく。水音に代わって蝉の声が渦巻く。抱き上げられていたからだがおろされて、膝上まで水にひたる。大口をあけて吸いこんだ気塊が胸を刺す。咳きこんでいると、陽が射してきた。水辺に茂る緑が天窓をつくっている。雲の切れ間に空があった。足首をくすぐる水泡がある。水の湧く口がそこここにあるらしい。樹木と草に囲まれたここからは、人がつくったものは何も見えない。  さかなが水際の緑陰に沈んでいる。その傍らには裂けた大樹の根だけがある。 「水の流れこんでいるところがあったでしょう。あそこからなら、ここを抜け出すことができます。ここに厭いたら出て行ってもいい。あの暗がりは海につながっているそうですよ」  湧水の溜まった淵は底を見通せるほどに澄んでいた。重なる葉陰のせいなのか、その碧は深く、呑まれそうになる。 「この湧水が池となり、川となり、里へと流れているのです。他族にいつ攻め入られてもおかしくなく、常にその里のものではないものに怯えている。潰えることを恐れ、避けようとして、今というものを連ねていくためには毒を飼い続けなければならないと信じている。そういった里です」  さかなの指先が、かつては巨木であったであろうものの裂傷を撫でた。 「ここは、もともと、さかなの庭なのです。ここにいることができるのは、さかなだけですから」  水面を鏡として己を見た。みどりの目がこちらを見ていた。伸びた髪は灯を透かした雪壁のように白かった。  こんな色を帯びていた覚えはない。  鏡像を見つめる。唇がふるえる。 「おれは何を食べた?」  背後からさかなの手が伸びてきた。白糸を掻き分けてこの頬に触れようとしたけれど、ためらったようだった。その代わり、目隠しをするように、顔を包んでいる髪を優しく撫でた。  編まれた前髪が垂らされて、片目を覆った。前髪を束ねるためにさかなが結んでくれた紐は、華やかな飾りとなっていた。顎のあたりで揃えてくれた髪を、さかなが指で梳く。  さかながよく凭れている柱に寄りかかって池を眺めていると、少女が通りかかった。 「抜け道、教えてもらった? そういう顔をしているから。ここにいるけれど、ここにはいないみたい。他の子もそうだった」  ここで見かけたことがあるのは、衛士をのぞけば、さかなと少女だけだった。ならば、他の子というのは、ここから抜け出していった誰かということになるのだろう。  凪いだ水面に空が映っていた。天鏡を囲む逆さまの緑は滴るようで、その裏ではゆらめく水草を縫いながら小魚が泳いでいた。 「知っているのなら、あんたたちは、どうして出て行かない?」  少女は池の向こうへと眼を滑らせた。少女が見つめようとしているのは、ここから目にすることはできないけれど、巨木の根だけが佇んでいるところであるようにおもわれた。 「ひとを待っている。ここにいれば、会えるかもしれないひと。だから、わたしはここにいる」  倦んで厭いそうになるものを宝物のように扱い続けようとして、疲弊を鼓舞で殴りつけているような声だった。 「君がいなくなったところで、里は里として在り続けたいがために、すぐに次を見つけてくる。あのひとに会えるのかもしれない営みが続いていくのならば、わたしはそれに手を貸すだけ。だけど、金鱗はそうではない」  ゆるやかに回遊する金色の魚群を、少女は睨みつけた。 「あのさかなを満たしているのは、あのさかなの欲ではない。あのさかなが呑み続けているのは、あのさかなの欲ではない。あのさかなは、溺れていることにも気づかずに、もとより溜まっていた水の底に沈んでいる。たぶん、あのさかなは、そんなことをのぞんではいなかった」  最後に少女が口にしたあのさかなという音の示すさかなが、金色のさかなではないということは、察することができた。ならば、金色のさかなを身じろぎできないまでに埋めているのは、なにものの欲なのか。  凪いでいた池がざわめいた。にわかに魚群の様子が忙しなくなった。それまでひとつの大きな金色の流れであったものが、ひとところを目指して縺れていった。金色の魚たちは食餌に集っていくようだった。  その夜は池の魚が騒いでいた。  夜具のなかから引き摺り出され、連れられていったのは門前だった。腕を鷲掴みにされたまま、ここで寝起きをするようになって初めて、門外の土を踏んだ。おれをここまで引き立ててきたのは衛士だった。山の麓からは、波が打ち寄せるように、人々が駆け上がってきていた。夜であるにもかかわらず、里のあるはずの平地は明るかった。残照でも暁でもないそのあかりは、定まることなく夜を舐めていた。  門前から見下ろした里は、炎が滴るままに、燃え盛っていた。 「おまえはあれを防げたはずだ。そうでなければならないはずだ。そのために里はさかなを囲っていたはずだ」  頭上で捲くし立てられる声には怒気が籠もっている。駆けてくる人々が、ぶつかっては抜けていく。ゆらめく明るさが迫ってくる。煙が山を這い登ってくる。矢の雨が門前に降り注ぐ。衛士の手から力が抜ける。門のなかから伸びてきた手が肩にかかり、後方に引かれた。背から倒れこむところを抱きとめられる。 「泳ぐよ、はぐれないで」  おれの手首を掴み、少女はまっすぐに池を目指した。池では魚群が跳ね踊り、飛沫がけぶっていた。水のなかでは泥が舞い上がっていて、時折、魚を貫いた矢が沈んできた。息継ぎのために浮上して、その度に慌てて潜ることを繰り返しながら、おれたちは泳いでいく。先導していた少女が、泳ぐことをやめて、横に並ぶ。  そこには暗闇しかなかったけれど、そこに何があるのかはわかっていた。水底まで夜に染まっているから目ではわからないけれど、肌を撫でる水流に覚えがあった。  ここから逃げろというのだろう。  少女はどうするのだろう。わからないが、少女はここにいる。金色のさかなはどうするのだろう。わからないが、あのさかなはここにはいない。 金鱗はどこだ。  水を蹴って反転する。どこをさがすべきかの心当たりなどほとんどない。水を掻いて泳いでいく。水面から顔を出す。夜気に沈む湧水の庭を、脚を水にひたしたまま、飛沫をあげて歩く。騒がしさはまだ遠い。里人という波はまだここまで到達してはいない。  轟く遠雷が静けさをさざめかせる。  巨木の残骸のところに金鱗はいた。こちらに気がつくと、驚いたのか、目がまるくなった。少女の声が追ってくる。 「ここには、さかながひとり、いればいい」 「だから、おれたちはここからいなくなれと、金鱗は言ったのだろう」  押し黙った少女を置いて、大股にさかなへと近づいていく。 「骨を砕かれても、肉を削がれても、いずれもとのかたちを取り戻してそこに在り続けることができるというそのことだけをもってそう言うのなら」  あどけなさの瞬いたさかなの碧を、睨みつける。  「残していって、いいわけがない」  雨粒が、頬を叩いた。  淵そのものであるような碧にゆらめいた哀しみのようなものが、諦念とも慈しみともつかないものに潰された。冷えた穏やかさのみを貼りつけて、燻り出されて押し寄せてくる人の群れを、さかなは見つめる。 「群れの長とは、訪れるものを迎え、饗応するものです。ですから、ここには、さかなというものがいなければならない」  雷光が閃いて、淵は輝く鏡となった。雨粒が、飛来する鏃が、白銀の鏡面を破砕する。雷鳴が轟き、暗闇は雨脚に塗り潰される。  光が満ちた。この肉は轟音に震えたはずであるのに、音は無かった。 「お待ちしておりました」  天を仰いださかなの唇が、そのような音をかたどった。喜びにまみれた少女が、陶然と、こちらに両腕を伸ばしてきた。  それから先のことは、よく覚えていない。  潮騒が聞こえる。磯の香が満ちている。  痛みはない。渇きも飢えもない。思考は冴えている。  ここは波打ち際であるらしい。  夜天に雪が舞っている。潮を受けとめる海辺の林には、紅が燈っている。鮮紅の花を咲かせた樹木の腕が、傘のように、水際に迫り出している。  その樹の肌には見覚えがあった。裂けて、苔むして、ところどころ崩れてはいたけれど、さかなの撫でていたあの樹の肌は、これによく似ていなかったか。  紅の花が首ごと落ちてきた。  この身はその花冠よりも小さかった。しろいかけらが、この身だった。砕けて焦げた骨のかけらが、水の路をどのように辿ったものか、ここに流れ着いていた。  花の首が落ちてくる。汀が鮮紅に潰されていく。根づいた地を埋め尽くすように、降る紅はうずたかく積もっていく。海辺に燈る紅に、深く、この身はうずもれていく。
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