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僕は眉をひそめる。会うというのも曖昧なものだ。同じ空間にいればカウントされるのか。それともなにか別のカウント方法があるのか。
「正確に言うとすれ違った回数だけどな。まあ似たようなもんだろ」
だいぶ意味合いが変わりますよ、という反論を飲み込んだ。
「なるほど。それであの人ごみの中から知り合いを探し出せるんですね」
「その通りだよ。なかなか察しがいいね、ワトソン君」
名探偵を気取ったように先輩は助手役の僕を褒めた。
「その眼鏡どうしたんですか?」
「ん、地元の奴からもらった。そいつ馬鹿だからさ、この眼鏡のいい使い方を思いつかなかったらしいぜ。もったいないだろ?」
まるでドラえもんの秘密道具ばりの不思議グッズなのに、使う者によってはこんなにもくだらないものになるのかと僕は心の中で溜め息をついた。
「お、ターゲット発見だ。この眼鏡お前に貸してやるから、がんばれよ」
僕の心中を察することなく、先輩は渋谷の人ごみの中に飛び込んでいった。Q-FRONTから出た先輩が交差点を渡ったハチ公像の手前で女の子に声を掛けるのを見届け、先輩の分のゴミを片付け、僕もスタバを出た。
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