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その日の夜に動画投稿サイトにアップした彼女の動画は驚異的な再生回数の伸びをみせた。最後に立ち去るようにスーッと消えてくれたおかげで彼女が幽霊であるという説得力が生まれ、CGだとかトリックだとかいう疑惑もひっくるめて話題になっていった。
先輩はあの日再会した中学の同級生と意気投合し付き合うことになったらしい。もう眼鏡は使う必要がないということでそのまま僕がもらうことになった。もちろん幽霊のことや、動画のことは秘密にしたままだ。余計なことを言ってやっぱり返してくれなどと言われたくなかった。
僕は休みのたびに眼鏡をかけて様々な場所に出かけた。驚いたことに渋谷に限らず人の多いところには必ずと言っていいほど幽霊がいる。眼鏡を掛けて数字を確認しないとそうと分からないやつも多い。池袋のビルの前、新宿駅の階段、銀座のデパートの化粧品コーナー、見つけたそばからカメラを回し、ノーカットで動画を投稿し続けた。
本物の幽霊の姿が次々とアップされる僕のチャンネルはどんどん登録者数を増やしていき、ワイドショーで取り上げられたのをきっかけにマスコミの取材依頼も増えた。先輩にバレたくないのと、眼鏡のことを隠しておきたいので厳選したメディアに顔出しNGで対応していたが、どこから漏れたのか僕の個人情報は流出し、よりにもよって先輩がそれを知ることとなった。
仕事終わりに連れていかれた居酒屋で僕の正面に座った先輩は一杯目の生ビールが運ばれてくるまで会社の上司の愚痴を吐き続けた。
「ところで、浩平。お前の動画、あれは俺のやった眼鏡と関係があるのか?」
一瞬迷ったが頷いた。いくら先輩が馬鹿だとはいえ、タイミングを考えれば無関係だと言い張るのは無理があるだろう。霊は頭上の数字が「0」で出ること教えると「なるほどな!」と店中に聞こえる声で驚嘆した。
「俺も一度見たことがあったんだよ。『0』の女の子さ。可愛かったし『0』ってなんだ? って気になって声かけようとしたんだけど見失っちゃってさ。そうか、あの子は幽霊だったのか」
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