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周平は、掃除当番の生徒を数人教室に残して廊下に出た。廊下の窓からは、広大な運動場を一望することができる。
そこでは、「さようなら」をした瞬間に教室を飛び出したと見られる子たちが集まり、ドッジボールやサッカーをして遊んでいた。どちらも一チーム三・四人程度しかいないようだが。
さらに向かって左側を見てみると、校舎に隣接した小さな山がある。その山は昔、一部の生徒の間では『放課後の山』と呼ばれ、文字通り放課後の遊び場の一つとなっていた。そして周平も、その一部の生徒の内の一人だった。
周平がその山に行くときには必ず、特定の仲のいい友達二人がついてきた。周平はその二人を連れて、毎日のようにその山に通い、思うがままに自然と触れ合っていた。
周平が特に印象に残っているのは、たぬきのことだ。たぬきは、ある大きな木の樹洞に棲んでいた。番いらしき二頭のたぬきは、いつ見てもそこで丸くなっていたのだ。
ただし、その木の樹洞は数メートルの崖を下った先にあった。当時まだ二年生だった三人の中には、その崖の下に降りられる度胸のある者は居なかった。だから、周平たちはきまって、その崖からそっと顔を出して、静かに見守っていたのだ。
周平は再び、視線を運動場に戻した。いつの間にか、ランドセルを背負って帰宅する子が、ちらほらと見え始めていた。
あの子たちの中に、友達と放課後の山に遊びに行く子はいるだろうか。周平はそう思いながら、校門のあたりを眺めていた。すると、ほとんどの子が右に曲がっていく中、三人の男の子が、校門を出たあと、楽しそうに左に曲がるのを見た。
その瞬間、周平は胸が詰まるような感慨を覚えた。窓から運動場を見下ろして、えくぼが出来るくらいの笑みを浮かべている姿は、傍から見ればさぞかし異様だっただろう。
ところがよく見てみると、周平はあることに気付いた。その三人の中で、一番先頭に立って山に走っていく、小柄な男の子がいる。その子が履いているのは、青色の半ズボンだった。
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