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「それでは、職員会議を始めさせて頂きます。まず最初に…」
校長が席に座ったところで、司会の先生がそう切り出した。早速、運動会や修学旅行などの行事予定や、委員会やPTAの話などが、淡々と進められていく。もっと熱い議論になるのかと思っていたが、その殆どが例年通り行うという結論に終わり、周平は少し拍子抜けした。
周平は、会議が始まる十分前から、小さな会議室の端の方で、ちょこんと席についていた。そして、席に座る更に前から、周平は強い緊張を覚えていた。しかし、周平が一言も発言しないうちに、会議はどんどん進んでいくので、段々とその緊張は緩みつつあった。
ところが、ある一人の先生の発言に、周平は思わず動揺してしまった。
「実はうちのクラスで、あの山の崖から落ちて怪我をした生徒がいました」
それは、『放課後の山』の話だった。周平の隣に座る年配の先生が、ため息を漏らす。周平の記憶では、その先生は、生徒から特に人気だった安藤先生だ。
「幸い打撲程度で済んだようですが、このままではいつか取り返しのつかないことになるかもしれません」
「またか。この様子だと、結構な人数の生徒が山に通ってるみたいじゃないか」
誰かがそう言った。
「この前の遠藤君も、その崖から落ちたんですよ」
「あそこの崖は大人でも危険だというのに」
「山は危ないと、あれほど言っているのに、まだ誰か行っているのか」
「崖だけじゃない。あそこには野生の汚い動物もいる」
皆、口々に不満を述べる。そんな状況を傍観しながら、周平はなんとなく嫌な予感がしていた。
その予感はどうやら的中したようだ。隣に座る安藤先生が、ぽつりと言った。
「もう、山を閉鎖したほうが良いんじゃないか?」
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