白百合、白い目、白金魚

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「検査の結果、ほかに異常は見つかりませんでした。うかがったお話からしても……熱中症でしょう。ここまで、よく歩いて来られたものだ。しかしエントランスの目の前で倒れるとは、惜しかったですね」  諸々(もろもろ)の検査結果を見ながらそう言って、初老の医師が俺の目を覗きこんだ。整頓された机の上、小さな臓器の模型と並んで置かれたデジタル時計が、正午を示そうとしている。  まさか熱中症、それも倒れるほどとは。風邪を引いたくらいのつもりだったが、考えてみれば、いつからか意識が朦朧としていたから、あんな嫌な白昼夢を見たのだ。 「あなたはもしかして、なかなか人に頼れずに、無理してしまうタイプかな」 「……そう、ですね。人の目があると……なぜかそのときは、持ちこたえてしまうもので。風邪なんかが、一人になったとたんに悪くなったことは、前にも」  うんうんと、医師はにこやかに頷く。……普段なら言わないことが、勝手に口から出てしまった。熱くなった体のそこら中を冷やしてもらい、一リットルもの点滴を受けて、もう意識はしっかりしたと自覚しているのだが、まだ本調子とは言えないようだ。 「それじゃ、入院するより、自宅療養がいいかな。大事を取って、今日一日だけでも入院した方が、とも思うのですが」  答えは決まっていた。医師の言うとおり、他人のいる環境では休めない。それに……。 「ええ、帰らせていただきたいです。待たせているやつがいるので。あの、気を張る必要のないやつですから」
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