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お正月福袋
(あ~あ、正月早々、ツイてない…)
昨夜は遅くまでテレビを見ていたせいか、或いは休みだということで気が緩んでいたのか、目が覚めたのは10時近かった。
焦って下に降りていくと、居間で母さんがテレビを見ながら笑ってた。
「あら、起きたの?」
「起きたのじゃないよ。もう10時じゃないか。
起こしてくれたら良かったのに。」
「だって、あんた…休みはゆっくりするって言ってたじゃない。」
「そりゃそうだけどさ…」
今日は福袋を買いに行くつもりだったのに。
お得なものに目がないのは、誰だって同じだ。
早く行かなきゃ良いものは買えない。
前の日から並んでる奴だってたくさんいるんだぞ。
とりあえず、急がなきゃ…!
「お雑煮食べるでしょ?お餅はいくつにする?」
「え?」
早く出掛けたいのは山々だけど、俺は餅が大好きなんだ。
そんなこと言われたら、無視するわけにはいかない。
「み…みっつ。」
餅の誘惑に負け、雑煮を食べて…
結局、ショッピングセンターに着いたのは昼過ぎだった。
「え~……」
目当ての福袋はすでに売り切れていた。
なんてことだ。
良さげなものはないかと何店かまわってみたが、結局、気に入ったものはなく…
俺は重い足取りで家路に着いた。
夕方には、父さんが、じいちゃんを連れてうちに帰って来るから、それまでには帰らなきゃ…
電車を降り、バスの時間を見たら、なんとついさっき出たばかりだ。
次のバスが来るまで、あと40分もある。
ぼーっと待ってるのもなんだから、近くの商店街を冷やかすことにした。
ところが、今時信じられないことだが、商店街は軒並み休み。
そこには露店が一軒出ているだけだった。
壁には、『ワンコイン!正月福袋』という下手くそな文字が…
「お兄さん、ひとつどうだい?
たったの500円だよ。」
500円の福袋なんて、ろくなものが入ってないことは考えればすぐにわかる。
それにしても、ばかでかいものや小さなものと、袋の大きさもまちまちだ。
「お兄さんにだけ教えるけど、この中には何十万もする掘り出し物も入ってるんだよ。」
嘘つけ、そんなものがあるわけないだろ。
くだらないものを見てしまった。
周りには俺以外誰にもいないし、逃げ出しにくい雰囲気だ。
こうなったら買うしかないか。
ま、良いか。どうせ500円だし。
おうっ!買ってやろうじゃないか!
問題はどれを買うか…だ。
まぁ、昔話を考えても、欲をかいてでかいのを選んだら、ろくな目にあわない。
つまり、謙虚に小さいものを選んだ方が良いものが入ってる公算は強い。
(でも…)
やたらとでかい袋が妙に気になる。
ひとつだけ、馬鹿みたいにでかいんだ。
でも、一番小さいのも気にはなる…
(よしっ!)
俺はどちらか片方に決めかけて、一番でかいのと一番小さい福袋を買うことにした。
「お兄さん、正月早々、良いものを手に入れたね。」
頬笑む男に俺は1000円を支払い、そそくさとバス停に戻った。
あと少しでバスが来る。
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