正ぼっち

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正ぼっち

(さて…出かけるか。) お雑煮で腹は膨れ、体は温まった。 でも、朝から餅三個はちょっとカロリー採りすぎだな。 いくら餅が好きだからって、やっぱり二つにしておくべきだった。 そんな反省を交えつつ、初詣には、バスには乗らず歩いて行くことに決めた。 寒いのは寒いけど、空は高く澄み切っていて、絶好の散歩日和だ。 天気が良いというだけで、なんだか、良いことがありそうな…そんな気分を感じた。 ゆっくり歩いて約20分… 俺は、神社に着いた。 もう昼だというのに、やはりかなりの人が並んでる。 参拝するまでには早くても一時間はかかるだろう。 「……ん?」 列の後ろに並ぼうと思った時、足元に飛んで来た小さな紙きれ。 それは、おみくじだった。 なんと!『大吉』のおみくじだ。 「すみませ~ん!」 そこに走りにくそうにして走って来たのは、赤い晴着を着た若い女性。 それも飛び切りの美人だ。 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花…俺はふとそんな言葉を思い出した。 「あ、もしかして、これ…」 「は、はい、私のです。」 見つめ合う俺と彼女…本当に綺麗な子だ。 信じられないけど…もしかして…これって運命の出会い!? 「あの……」 「あ、は、はいどうぞ。」 俺はおみくじを手渡した。 「美香~!」 その声に彼女が振り返る。 和服を着たモデルみたいに格好良い男だ。 「こうちゃん、あったよ~!」 彼女はその男に向かって手を振り、そして駆けて行った。 俺は、仲良く寄り添う二人の後姿を見つめながら、その場に立ち尽くし… (……だよな。) でも、ほんの一瞬でも楽しい夢を見られて良かった。 俺は、列に並んだ。 参拝までは予想通り、一時間とちょっとかかった。 おみくじは『吉』 極めて普通だ。 (うん、そうだろうな。) なんだか妙に納得出来た。 特に良いこともなければ特に悪くもない。 俺って、そういう奴だよな。 (さて、と…) まだ陽は高い。 すぐに帰るのはもったいない。 俺は、散歩を続けることにした。 こんな穏やかな正ぼっちも悪くない。
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