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茄子ダンス
「うわぁ、気持ち良い!」
理沙の声にふと見れば、眼下にはマッチ箱みたいな街並みが…そして、すぐそばを精悍な顔つきの鷹が飛び去った。
いつの間にやら、僕らは飛行船に乗り込んでいた。
「あ、ヒカル!見て!富士山だよ!」
理沙の指さす先には、雄大な富士山が見えた。
僕は思わずスマホで画像を撮る。
「ヒカル、寒くなって来たから、中に入ろうよ。」
「そうだね。」
飛行船の中は思ったよりもずっと広い。
しかも、そこには煌びやかな衣装を着けた男女がいて…
「はい、どうぞ。」
僕の目の前になすびが二つ差し出された。
戸惑う僕とは違い、理沙はそれを当然みたいに受け取った。
「理沙、これ、どうすんの?」
「ヒカル、何言ってんのよ。
今、流行ってるじゃない、茄子ダンス。」
「……茄子ダンス?」
急に軽快な音楽が流れたと思ったら、みんな、両手に茄子を持って踊り出す。
理沙もみんなの輪に入って踊るから、僕もその後ろについて、みんなの真似をして踊る。
なんだか本当におかしなダンスだ。
でも、ちょっと楽しい。
夢中になって踊ってると、腕を振った拍子に茄子が僕の手から離れた。
放物線を描いて落下し、ころころと転がる茄子…
すると、急に音楽がやみ、皆が僕を見てひそひそと話し始めた。
何なんだよ…僕はなんだかとても不安な気持ちになった。
「理沙…あの…」
「ヒカル…なんてことしたの?」
「え…?」
「茄子を落とすなんて…もうおしまいだよ…!」
「えっ?な、なにが?」
理沙はその場に突っ伏して泣き始め、そこに大勢の警察官がどやどやと入って来て…僕に拳銃を向ける。
「な、何を…」
「この茄子を転がしたのはおまえだな!」
「えっ!そ、そうですが、それが一体…」
震える声でそう言うのが精いっぱいだった。
撃たれる…なにをやらかしてしまったのかまったくわからないけど、きっと撃たれる…僕の鼓動は速さを増した。
「照準を定めろ!良いか?3…2…1……」
「う、うわぁ!」
自分の声で目が覚めた。
(……夢か……)
僕は、噴き出す汗を掌で拭った。
今日は初夢の日。
縁起の良い夢を見ようと、富士山と茄子と鷹の切り抜きを枕の下に入れて寝た。
確かに、それらは全部出て来たけど、何なんだ、今の夢は…
「あぁぁ、びっくりした。」
僕は今見た夢を思い起こしながら、苦笑した。
後で、理沙にも教えてやろう。
このおかしな初夢の話を…
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