鳥になった少年

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鳥になった少年

「あんたこそ、出て行きなさいよ! ここは私の父さんが買ってくれた家なんだから!」 まただ… 毎日、毎日、パパとママは喧嘩してる。 僕はそれを聞くのがいやで、ベランダに出て来た。 ちょっと寒いけど、見晴らしが良くて、僕の好きな場所だ。 なんたって、僕の家はタワーマンションの最上階。 遮るものがないからずっと遠くまで見渡せるんだ。 (空はいいなぁ…) 広くって澄み切っていて…空を見ていたらいやなことも忘れられそうな気がする。 そう思った時、がしゃんって大きな音がして、僕の背中はびくっと波打った。 きっと、ママが何かを投げたんだ。 (そう簡単には忘れられないか…) パパは結婚してるのに、他に好きな女の人がいるらしい。 そのことでママは機嫌が悪い。 最近は僕のこともすっかりお手伝いさんに任せて、一人でどこかに行ってる。 たまに帰って来たら、なんだかすごくお酒臭い。 そして、ママとパパが出くわすと、いつも決まって喧嘩になる。 もう離婚するんだって。 でも、問題は僕のこと。 パパもママも僕なんていらないって言って、お互いに僕のことを押し付け合ってる。 最初はそんな話を聞くのがすごく悲しくて、よくひとりで泣いたけど… そんな日がもう長い事続いて…僕は、自分が悲しいのかどうなのかもよくわからなくなっていた。 (あ……大きな鳥……) 何て鳥なのかはわからないけど、大きな翼を広げて空を飛んでいる。 風に乗って、まるで空を泳いでいるようで、とても気持ちよさそうだ。 (僕も鳥になりたい……) 鳥になったら、あんな風に広い空を自由に飛び回って… いやなことなんて、きっとすぐに忘れられる… (そうだ…鳥になろう…) 僕はエアコンの室外機に上った。 手すりの上に足をかけ… 僕は大きく手を広げて、空に向かって飛び出した。 パパやママの喧嘩の声なんてもう届かない、広い空へ……
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