オーバーキル

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「──ょ────ぅ…………」 どんなものをも貫くような一筋の強い閃光が、繭と屋上との間に長く伸びていた。 それは、光の繭と化した神の右手だ──そう二柱の神たちは信じたかった。 彼らが思うに、その幼く愛しい神は、どうしても許せなかったのだ。 完璧であるべき使命を、僅かながらも汚した存在が。 目の前のほんの小さなゴミすら、その幼さゆえに、純粋さゆえに、許すことができなかったのだ。 だから彼はきっと、掲げた右手を光の槍に変え、まずは目の前のゴミ──清掃員に差し向けたのだろう。 一筋の強い閃光は、空に浮かぶ幼い神と、屋上にいる清掃員との間に伸びていた。 「それは、まあ…………そういことだ……だろう……?」 その考えを声に出して語ってはいなかったが、金色の髪を額に張り付かせ、彼は隣にいる神の方へと問いかけた。 「………………あ、ぁ……」 銀の長い髪をだらりと下げ、もう一柱は答えとも何ともつかない呟きしか漏らさない。 残された神が悟ろうとした現実は、真実ではなかった。 光の繭と化していた幼神は光を失い、その身を空の上に晒していた。 しかし、一筋の閃光だけは今もそこにあり、変わらず強い輝きを放っている。 その鋭く強い輝きは、幼い神の喉を刺し貫いていた。 彼は最期、その輝きに目を奪われたのだろうか。 自分の喉を貫く光を見て、もっと正確には貫いている光の先にいた者を見て……彼は絶命していた。 黒々とした幼神の瞳には、すでに虚無が生まれている。 そこに宿っていたものはすべて、そこから消え失せていた。 その神が生きていた赤い証が、彼の白い肌を汚していく。 噴き出した跡が散らばっていないのは、神を即座に絶命させるほどの、強い光の能力(ちから)によるものなのか。 死んだ神を貫き続けている、慈悲なき閃光。 その光には一滴の血も付いていないが、どういうわけか閃光の元であるその柄は例外なようだ。 蛇の舌のような細い赤色が、柄を伝って流れてくる。 柄を持っていた清掃員は、気付くと驚いて手を離しかけた。 「──うわっ、ばっちぃ……っと」 思わず、口から漏れ出た独り言。 彼は手袋を嵌めてはいたが、なるべくなら汚したくないのだろう。血の汚れは特に、落ちにくいものだ。 彼はカートから慌ててタオルを取り出し、持っていた神取閃光(かとりせんこう)の柄に巻き付ける。 汚らわしい人間風情に汚れもの扱いされては、他の二柱も黙ってはいないだろう。 だが二柱からは、何の言葉もない。 言葉だけではない。 彼らの命は、もう無い。 受け入れ難い仲間の惨状を、目に焼き付けて── 変わらず聞こえる汚らわしい人の喧騒を、子守唄にして── 屋上にいた二柱の神も、いつの間にか永久(とこしえ)の眠りに落ちていた。 力を無くし、そのままそこに突っ伏して果てたらしい。 コンクリートの寝心地は、さぞ最悪だろう。 清掃員は神取閃光ごと、幼い神の死体もゆっくりと地面に下ろす。 そして再び、清掃用具が詰まったカートをいじりはじめた。 死んだ神々から見えない位置に置かれていたのは『殺柱剤(さっちゅうざい) 散布器』と書かれた機械。 清掃員はそのスイッチを切り、そして今一度、スイッチが切になっていることを指さし確認。 屋上で倒れた二柱は、密かに撒かれていたソレに殺られたのだ。 「全員コレで殺れてればラクだったのに……」 はー、と大きな溜め息をつきながら、清掃員は後片付けをはじめた。 後片付けといっても、三柱の神には特に何もしない。祈りだって捧げない。 周りのご迷惑にならないよう、手早く汚れたタオルをまとめたり、神を裁いた道具を片付けていく。
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