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パレードは佳境だ。ぱらぱら舞い散る光の粒。天火の鳴子のような鳴き声に合わせて、風神雷神がその炎を煽り、猛々しく天を焼く。
小さな家鳴り達は可愛らしい声で歌い、煽情的な衣装の仙女達が踊る。
特に中央の山車はその巨大さで人目を引く。
黄金に輝いたかと思えば、次の瞬間銀装飾、かと思えば玻璃に姿を変え、次の瞬間龍になって天に昇って、鯉になって地に落ちる。そしてまた金色の山車に姿を戻す。
えいやさ、えいやさ、という掛け声は観衆からも。
その、山車に空から巨大な蛇が下りて来た。おや、新しい余興かと騒ぐ人々と逆に、妖怪たちは目をむく。
『やぁや、皆様ご観覧。今宵はついに百年
影に闇にと朧に住まう、あやし我らが来たりてさ
あやしあやしの妖怪行進、さぁさ行く
あぁさ、そこの娘さん
あぁさ、そこの旦那さん
今宵今宵のこの日には、恨み辛みも忘れてさ
今宵今宵のこの日には、ただただ共に楽しもや』
高らかに歌うのは蛇の口。その姿がぐにゃりと歪むと次の瞬間山車のてっぺんには白いワンピースの可愛い少女、と小柄な少年。
「成程、特等席。あとで怒られるのを別にすれば」
「いや、目立つし、堂々とできるし・・・御免、単細胞だった?」
「ううん、合格」
山車の足元では、「蛇娘ぇっ!!」と怒鳴る何やら怖い顔の鬼。騰蛇は舌を出して、そうして空へと手を伸ばす。
「来たれや人魂!舞えや不知火!いっちょおまけにヒザマも遊ぼうか。
先行き満たすは黄金の道――金霊よろしく。
空が水満ちれば人魚も来られらぁっ。――出番だ汐吹。
人を楽しませるには、夜叉と血刀、鬼武者の演武。」
どじゃん、と一瞬のうちに水の塊が降ってきて、次いで轟々と火が走れば一瞬で場が乾き、道にはびちゃびちゃと下半身魚の上半身人間な美しい人魚達。慌てて海の妖怪達がたらいに水を満たしてその中に人魚を収めていく。あっちこっちでは刀を構えた鬼達が、派手な殺陣を披露して一気に場がどよめく。
「蛇娘っ!降りろ」
先ほどの鬼が、山車の側面を這い上ってくる。
「いやよ。大体この夜だけ、しかも人ごみに紛れてしか表にでられないなんてつまらないじゃない。」
すっかり目立って観客の目を集めた騰蛇は両手を広げて彼等彼女らに問いかける。
「『時に時に、ちょいと教えておくれなせぇ―――おたくのお隣、だぁれ?』」
観客の幾人かが、隣を確認する。拓斗も気づいた。――いる、いる、いる。
人間に紛れて、確かにいる、人ならざる者達。騰蛇の言う通り、確かに紛れて、そこにいる。今までは全然気づかなかった。ああ、あんなにも。
「私はね、こんなせせこましいのはもう御免。
堂々としたいの。ぶっちゃけるなら、ディズニー行きたい、ユニバ行きたい、甘いアイスとかあっつあつのワッフル食べて、綺麗なお洋服も欲しいっ!」
「あれ?めっちゃ俗!」
鎮魂は!?という拓斗の突っ込みに、あっはっはと騰蛇は上機嫌。近くを飛んでいた鬼火を掴んで、丁度山車のてっぺんに這い上がって来た鬼の顔面に投げつける不作法さだ。鬼は地面まで落っこちた。
「ただでさえ、この日しか表に出てこられない。それも人目を気にして、人ごみに紛れてしか、楽しめない。
そんなのはさ、やっぱつまらないのよ。だってもう百年よ。だのに皆、こちら側に必要以上に関わるのは恐れている。
私もさ、皆もさ、もっと堂々と出来たらいい。普通にできたらいい」
観客達の中から、「あれ、こいつ一つ目」「あら可愛い小鬼さん」と声が聞こえてくる。あの人ごみの中では一度見つかれば逃げ道すら無い。
いい場所を教えてくれてありがとう。と騰蛇は言った。
「まあ、私は目立ちすぎちゃったけど。
来年からは、もう少し皆で、普通にでてこられるかなぁ」
「したらいいよ。俺、街を案内する」
「君が?」
にたりと笑って騰蛇は言った。また唇が耳まで裂ける。拓斗は一瞬仰け反ったけれど。ここで、このまま怯んだらまた会えるか解らない。だって拓斗は奥手だし、騰蛇は可愛い。
彼女の気を惹ける言葉は何だろう。
「じゃあ、来年もまた君を見つけるから」
きょとりと騰蛇は瞬いた。眼下ではあっちこっちで妖怪と人間が慣れない挨拶など交わしている。今日、この夜ばかりの出会い。まるで特別な。
「もし、またこの人ごみの中から君を見つけたら」
「見つけたら?」
おもしろそうに、試すように、騰蛇が聞いた。
「僕と、お友達になってください」
今はこれが、精一杯。
きょとりと瞬いた蛇の神様は。
しかし次の瞬間、大口開けて呵々大笑した。
―――おたくのお隣、だぁれ
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