愛しき人海

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 ナミが行ってしまった後、俺たちが戸惑っていると、初老の女性が大丈夫だと言って聞かせた。 「お地蔵さまは親より先に逝ってしまった子ども達を天国まで導いてくださるから」  それなら安心だと、俺たちもまた、あの世へ続く行列へと戻ることにした。 「皆さん、本当にありがとうございました」  俺は一緒になって迷子の女の子の世話をしてくれた一同に改めて礼を述べる。自分一人ではどうしようもなかったが、彼らがいてくれたおかげで何とか解決したのだ。いくら感謝しても仕切れないほどだった。 「あなたも道中気をつけてね」  またどこかで、などと皆で互いの無事を祈りながら、再び長い行列の一部となっていった。  不快感しか生み出さない人混みなんてと辟易していたが、これがなかなか、たくさんの人間が集まらないとできないこともある。  そのことを知れただけあって、生きていた時よりもほんのちょっぴり、果てなく続く人海が愛しく思えた。
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