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見渡す限りの、人、人、人。
途切れることのない行列。
何もかもが判然としない世界の中で、ただ一つはっきりしていることがある。
ここにいる全員がすでに死んでいるということだ。
ことの始まりーーそれとも終わりというべきかーーはぼんやりとしていてほとんど思い出せない。
気がつくと、この人口密度のやけに高くて薄暗いトンネルの中にいた。眼前に続く、果ての見えない人の列はどこに行き着くのかもよくわからない。
「近年の人口増加とあの世の人手不足の影響で、閻魔大王様の審判に到るまでかなりのお時間がかかっております。皆さまにはご不便おかけしまして、誠に申し訳ございません。前の人に続いて、押し合わずゆっくりと進んでください」
時折聞こえてくるこの声は、どうやらトンネル内のスピーカーから流れているらしい。初めて聞いた時はお経みたいな話し方で内容も意味不明。わけのわからない放送だなと思っていたが、よくよく聞けば「あの世」だの何だの言っているではないか。そこでようやく自分が死んだことを悟った。
終わりの見えない死人の行列。生きているときも通学・通勤で満員電車やラッシュに悩まされていたが、死んでもまたこれか……。
それでも人々はのたのたと牛のような歩みで少しずつ前に進んでいる。
そして、俺もその人混みの一人だった。
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