くまさん

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「みんなやめて!なんで?なんであの子を殺しちゃうの?何にもしてないじゃない!」 赤い服の女の子が、猟銃を持った男の人達の前に立ち塞がります。その後ろ、15メートルほど離れたところに、大きな大きな、真っ黒な熊がじっとこちらをみていました。 「危ないから離れなさい!君が殺されてしまうかもしれないんだぞ!」 「殺されないもん!あの子はそんなことしないもん!」 勇気のある女の子は胸を張って立ち塞がっています。 男の人達の中から、1人の女性が女の子の元に走ってきました。彼女の母親です。 母親は「ごめんなさい、ごめんなさい」と言いながら嫌がる娘の手を引きます。その間、大きな熊はじっとしていました。 母親の腕の中で彼女は暴れます。 「私たちの体は、私たちが食べた豚さんや牛さんでできているんでしょ?だからあの熊さんも、あの子で出来ているのよ!それなのに、なんで?なんで?」 それを聞くと、母親は声を出して泣き出しました。あの子──小さな女の子の妹──は一週間前に、あの熊に食べられてしまっていたのです。 母親が泣き出した直後、背後から乾いた銃声が何回も聞こえました。 あの子は2回も、殺されたのです。 赤い服の女の子は、母親の腕をすり抜け、動かなくなった大きな熊の元へ駆けて行きました。
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