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総十郎君が話し出したのは彼が2歳の時だった。
もしかしたら総十郎君は話してくれないかもしれないと心配していた富士子にとって、それは大きな喜びであり驚きだった。
お兄ちゃんの港ちゃんが学校へ行っている間に富士子は総十郎君と二人きりで過ごした。
その瞬間は甘く濃密な時間で、その幸せな時のことを富士子は多分一生忘れないのだろうと思う。
もしも富士子がいつか自分の名前を忘れてしまったとしても、自分のお家がどこなのかわからなくなったとしても、あの時の甘美な時のことだけは、愛する息子達を命がけで育てた記憶だけは決してなくならないのだろうと思う。この人生に意味があるのならば、出会いと別れを繰り返すこの人生にもしも意味があるのならば富士子は2人の子供たちを育てた時の甘美な幸せな記憶だと思う。
多分富士子はその幸せな時間の記憶があるから、今でも生きているんだと本気で思う。
「 ママあの日のこと覚えてる?」
総十郎君は港ちゃんと同じで初めて話した日から文章で話しをした。
「 ほら、お盆の日に車でお出かけした時に僕とお兄ちゃんを車に乗せてママがチャイルドシートに座らせてママがハンドルを握って、パパの病院へ行った時のこと。」
「 ああ、はいわかる。あの日ね。
覚えてますよ。」
富士子ははっきりと覚えていた。
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