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「 怖くないの?」
富士子が聞くと、総十郎君は落ち着いたクールな目をして、信じられないほどの可愛い声で、
「怖くなんかないよ、全然。
いつもゲラゲラ笑ってるもん。
見た目は怖いかもね、髪は長くてボサボサで傷だらけで怪我してるから血が出てるからね。でもその人がどこに行ってもどこも汚れないのよ。その人に手を伸ばしてもこの手はすり抜けるの。その人は天井も床も壁もすり抜けるから僕は出来ないなと思って。ママは見えてないなと思ってね。でも
とにかく優しい人なんだよ。」
港ちゃんはテレビを見ていた時に富士子に教えてくれた。確か時代劇がついていた。何年か前の事だ。足軽が戦争に巻き込まれてバタバタと死んでいくシーンがテレビに映っていた時に港ちゃんはテレビに向かって走ってテレビを指差して言った。
「 この人、この人にそっくりな人がそこにいる。」
富士子は港ちゃんが自分を驚かせようとウソをついているとは思わなかった。富士子は家庭内暴力の絶えない家に育ったから両親のことを全く信用していなかった。
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