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部屋に戻ると瑠衣がテーブルの前に座っていた。狭い部屋だ。テーブルとベッドは近い場所にある。彼はベッドに背中をもたれて座ったまま眠っているようだった。彼のすぐ隣にはタブレットがある。どうやらこれを眺めているうちに眠ってしまい、手からタブレットが落ちたようだ。その音を涼が聞いたのかもしれない。
「さっき眠ったんじゃなかったの?」
呟きながら音羽はタブレットを拾ってテーブルに置く。そしてため息をついて瑠衣を見つめた。
さて、彼をどうしたものか。起こした方がいいのだろうか。けれど、かなり疲れている様子だった。その証拠に座ったまま眠り込んでしまっている。きっと、夜もあまり眠れていないのだろう。
慣れない電車通学に慣れない場所での寝泊まり。食事だってまともに食べているかどうかわからない。疲れていて当然である。座らせたままというわけにもいかないが、音羽に彼をベッドまで持ち上げるだけの腕力があるとも思えない。
「……瑠衣くん?」
仕方なく、起こすことにした。声をかけて肩を軽く揺する。起きない。ただ低く「んー」と唸るだけだ。膝をつき、瑠衣の顔を覗き込むようにして音羽は「瑠衣くん」とさらに声をかける。
「寝るならベッドで――」
突然、強い衝撃を感じて音羽は体勢を崩した。胸に感じる温かさ。瑠衣の綺麗な顔がすぐ近くにある。彼は目を閉じたまま、音羽に抱きついていた。
「ちょ! 瑠衣くん?」
しかし瑠衣はやはり「んー」と唸るだけだ。寝惚けているに違いない。
「理亜……」
か細い声。夢を見ているのだろうか。夢の中でも理亜がいなくなってしまったのだろうか。瑠衣の肩が微かに震えていた。音羽はため息をつくと、そっと彼の身体を包み込んで背中をポンポンと叩いてやる。理亜がそうしてくれたように。
細い肩。
中学生にしてはやはり小柄だ。
小さな身体は温かく、柔らかい。
「理亜……?」
薄く瑠衣の目が開く。
「理亜じゃないよ」
音羽が答えると瑠衣は眠そうに瞬きをして「なんだ。音羽じゃん」と手を放した。音羽は「呼び捨てなの?」と苦笑してから瑠衣の右腕を自分の肩に回して立たせる。
「寝るならベッドでね」
「うん」
まだ寝惚けているのだろう。素直にコクリと頷いた彼は音羽に言われるがままベッドに転がるようにして上がった。そしてすぐに聞こえてくる寝息。
「はー……。びっくりした」
音羽は呟く。寝惚けていたとはいえ、男子に抱きしめられたのは初めてだった。音羽は自分の手を見つめる。温かな感触が残っている。
「んー」
瑠衣が眩しそうに顔をしかめて布団を頭の先まで引っ張り上げる。音羽は深くため息をついて部屋の電気を消した。
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