第3話 心配

4/6
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
「大丈夫?」  その声に音羽は坂口の顔へ視線を向ける。 「何がですか?」 「んー、やっぱりまだ精神的に落ち込んでるのかなぁと」  考えるように眉を寄せながら彼女は言う。きっと言葉が思い浮かばないのだろう。たしか初対面のときもこんな表情をしていたような気がする。 「別に、そんなことはないですけど」 「そう?」  坂口は首を傾げる。 「……それで、今日は何の用ですか? 理亜のことって聞きましたけど」 「ああ、はい。もう一度、彼女がいなくなる前後のことを聞きたくて」  坂口はすっと真顔になり、手帳を取り出した。音羽は眉を寄せる。 「なんで今頃?」 「今だから、かな」 「今だから?」 「ええ。時間が経ってからの方が思い出せることもあるから。それに、あのときの崎山さんはあまり話せるような雰囲気でもなかったし」 「ああ……」  なるほど。たしかに、葬儀が行なわれた頃の自分に何を聞いていたとしても、まともに答えてはいないだろう。 「すみません。葬儀の頃は記憶が曖昧で。坂口さんと、もう一人の警察の方に話を聞かれたことは覚えているんですけど何を聞かれたのかは……」 「ううん。こっちの方こそ、酷なことを聞いてごめんね」 「いえ。お仕事ですよね」  別にただの好奇心で聞いているわけではないのだ。彼女たちは仕事として理亜のことを聞いている。そう思ってから音羽は疑問に思う。 「でも、今もまだ警察が動いてるってことは理亜は……?」  すると坂口は少し迷うような素振りを見せてから手に持った手帳に視線を落とした。 「ご両親はね、自殺ということで処理してくれって仰ってるの」 「自殺……」 「あなたはどう思う? いなくなる前の宮守さんに自殺をするような雰囲気、ありました?」  音羽は答えることができなかった。  ここで下手に答えてしまえば理亜に迷惑がかかるかもしれない。どうして理亜があんなことをしたのか、まだ聞いていない。なにより理亜が生きていることを警察に知られるような危険は避けたい。  どう答えたらいいのだろう。  音羽の無言を答えと受け取ったのか、坂口は「あれからね」と続ける。 「他のクラスメイトの子たちにも聞いてみたんだけど、とても自殺するようには思えなくて。それにいくつか妙な点もあるの」 「妙な点、ですか」  坂口は頷きながら開いた手帳のページを指でなぞる。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!