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「あ、ありがとうございますっ」
「え?」
夕希がぺこりと頭を下げると、今度は淳弥がきょとんとした顔になる。
「…ストーカーちっくでごめんな。うん、なんか勝手に見て、元気貰ってただけだから…って、それがキモい? キモいよな。俺も、高校生かっ、って何度も思ったし」
「と、とんでもないです。なんか、びっくりしたのと、恥ずかしいので…どう反応していいかわかんなくって」
しどろもどろになりながら、夕希は両手を胸の前で振って否定する。
事実、悪い気はしていない。それは即ち、夕希自身が淳弥に好印象を持っていたからだろう。
夕希のアパートが見えてきた。ほっとしたような、懐かしいような、夕希は相反する感情に襲われる。
「ありがとうございます」
アパートの外階段の下で、夕希は再び律儀に頭を下げた。
「…うん、またね」
「はい」
「身体、壊さないようにね」
「頑丈なんで」
ふふっと笑い合ってから、「じゃ」と淳弥は踵を返す。
雨の中また来た道を戻ってく淳弥の背中を見送って、夕希は家に入って、真っ暗の部屋の灯りをつけた。好きだなんて言われていない。付きあおうなんて誘いがあったわけでもない。
けれど、今ついたこのLEDの灯りのように、確実に夕希の心にあたたかな火が灯った。
(峰淳弥さんか…)
面白いなあ、名刺までくれて。よく見ると書いてあるケータイ番号やメアドは淳弥個人のものではないのだろうか。
い、いいのかな、貰っちゃって。大事に保管しておかないと。個人情報保護法が…。
夕希はそっとその小さな白い紙を引き出しの奥に仕舞った。
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