第1話 夕希

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「あ、ありがとうございますっ」 「え?」 夕希がぺこりと頭を下げると、今度は淳弥がきょとんとした顔になる。 「…ストーカーちっくでごめんな。うん、なんか勝手に見て、元気貰ってただけだから…って、それがキモい? キモいよな。俺も、高校生かっ、って何度も思ったし」 「と、とんでもないです。なんか、びっくりしたのと、恥ずかしいので…どう反応していいかわかんなくって」 しどろもどろになりながら、夕希は両手を胸の前で振って否定する。 事実、悪い気はしていない。それは即ち、夕希自身が淳弥に好印象を持っていたからだろう。 夕希のアパートが見えてきた。ほっとしたような、懐かしいような、夕希は相反する感情に襲われる。 「ありがとうございます」 アパートの外階段の下で、夕希は再び律儀に頭を下げた。 「…うん、またね」 「はい」 「身体、壊さないようにね」 「頑丈なんで」 ふふっと笑い合ってから、「じゃ」と淳弥は踵を返す。 雨の中また来た道を戻ってく淳弥の背中を見送って、夕希は家に入って、真っ暗の部屋の灯りをつけた。好きだなんて言われていない。付きあおうなんて誘いがあったわけでもない。 けれど、今ついたこのLEDの灯りのように、確実に夕希の心にあたたかな火が灯った。 (峰淳弥さんか…) 面白いなあ、名刺までくれて。よく見ると書いてあるケータイ番号やメアドは淳弥個人のものではないのだろうか。 い、いいのかな、貰っちゃって。大事に保管しておかないと。個人情報保護法が…。 夕希はそっとその小さな白い紙を引き出しの奥に仕舞った。
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