1999人が本棚に入れています
本棚に追加
/177ページ
バイトの帰りは深夜2時に近い。朝から雨が激しく降っていたので、夕希は今日も自転車を置いてきていた。ちょうど、学校が終わる頃雨は上がって、今は綺麗な月が雲間から青白い光で夕希を照らしだしている。
みんなが寝静まった街。この時間になると、歩いている人に会う方が稀で、逆に不気味な感じがするから、不思議だ。こんな時間まで何をやっているのだろうと、自分のことを棚に上げて思ってしまう。
増して、後ろからひたひたとついてくる場合には、それはもう恐怖の対象でしかない。
(…気のせい、じゃないよね…)
夕希の足音を追いかけるように響くかつかつと言う足音。怖くて一度も振り向けないでいるのだが、底板がしっかりある固めの靴音――おそらく男性のものだろう。
さっきから、時々歩調を変えているのだが、その音はしっかりと夕希に合わせてくる。夕希は背丈も足の長さも標準の女の子だ。格別歩くのが早くはない。その夕希を抜き去って行かない…というのは、何か意図があるように思えてならない。
(…どうしよう、怖い。お父さんお母さん…)
心臓が胸を突き破って出ていきそうなくらい、早鐘を打つ。
けれど、実家の両親はここから新幹線で3時間も離れた場所にいる。心の支えにはなっても、今この瞬間の手助けは期待出来ない。法科の友人達も、連絡するには躊躇う時間だ。
夕希がひとりひとりの顔を思い浮かべていた時、最後に浮かんだのは淳弥の顔だった。
今日は閉店間際になって駆け込んできた彼は、やっぱり夕希のレジに並んでた。
「接待でさあ、残業になっちゃったんだよ。この時間だと、流石にお弁当も残ってないね。お寿司食べたかったのに」
そう言いながら、お茶漬けの素と、缶コーヒーとウコンの力を買っていた。
あれから40分くらい…。まだ、起きてるかな。
歩調は変えず、気付かれないようにスマホを取り出して、ラインの淳弥とのトーク画面を開く。
――後ろから誰かついてくる、怖い
震える指先で送信マークを押した。届いて欲しい。こんなに切実な思いを込めたメッセージは初めてだった。
最初のコメントを投稿しよう!