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重なりあうふたつの靴音を、電子音が乱す。先に狂ったのは夕希の後ろからついてくる足音の方だった。
迷ったのかゆっくりになった足音を聞きながら、夕希は手にしたままだったスマホを耳に当てる。
『いとちゃん?』
淳弥の声に張り詰めていた緊張と恐怖が緩む。
『大丈夫?』
「は、はい」
小声で返事をすると、淳弥の方からふうっと大きな深呼吸が届いた。
『今どのあたり?』
「えっと、図書館の壁がもうすぐ終わるとこ…」
『わかった。すぐ行くから、この電話切っちゃダメだよ』
何かをしながらなのだろうか、淳弥の声も近づいたり遠ざかったり、ノイズが混じったりする。
「は、はい」
『まだついてくる?』
「わ、わかんないです。足音が一旦途切れた気がしたけど、怖くて振り向けなくて」
『うん、振り向かない方がいいよ。』
呼吸を乱しながら、淳弥は言う。もうすぐコンビニが見える。明るいし、人の見えるところまで行けば、危害を加えられる心配は減るだろう。一歩、一歩。近づく灯りが頼もしくももどかしい。足音はもう夕希のものとリンクしていない。けれど、背中にべっとりと貼り付くような視線は感じていた。
「いとちゃん」
スマホからと正面から。2方向から名前を呼ばれた。
「え?」
と思って顔を上げると、淳弥が走って坂をあがってくるところだった。
「おいで」
駆け寄ると、淳弥は夕希を肩をふわりと抱きしめる。
「待ってて」
小声で淳弥は夕希に言うと、男の背中を追いかける。ふたりに背を向けて、元来た道を戻ろうとした男のフードを淳弥はしっかりと掴んだ。
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