第1話 夕希

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重なりあうふたつの靴音を、電子音が乱す。先に狂ったのは夕希の後ろからついてくる足音の方だった。 迷ったのかゆっくりになった足音を聞きながら、夕希は手にしたままだったスマホを耳に当てる。 『いとちゃん?』 淳弥の声に張り詰めていた緊張と恐怖が緩む。 『大丈夫?』 「は、はい」 小声で返事をすると、淳弥の方からふうっと大きな深呼吸が届いた。 『今どのあたり?』 「えっと、図書館の壁がもうすぐ終わるとこ…」 『わかった。すぐ行くから、この電話切っちゃダメだよ』 何かをしながらなのだろうか、淳弥の声も近づいたり遠ざかったり、ノイズが混じったりする。 「は、はい」 『まだついてくる?』 「わ、わかんないです。足音が一旦途切れた気がしたけど、怖くて振り向けなくて」 『うん、振り向かない方がいいよ。』 呼吸を乱しながら、淳弥は言う。もうすぐコンビニが見える。明るいし、人の見えるところまで行けば、危害を加えられる心配は減るだろう。一歩、一歩。近づく灯りが頼もしくももどかしい。足音はもう夕希のものとリンクしていない。けれど、背中にべっとりと貼り付くような視線は感じていた。 「いとちゃん」 スマホからと正面から。2方向から名前を呼ばれた。 「え?」 と思って顔を上げると、淳弥が走って坂をあがってくるところだった。 「おいで」 駆け寄ると、淳弥は夕希を肩をふわりと抱きしめる。 「待ってて」 小声で淳弥は夕希に言うと、男の背中を追いかける。ふたりに背を向けて、元来た道を戻ろうとした男のフードを淳弥はしっかりと掴んだ。
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