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「こんばんは」
急に横から声をかけられた。反射的に顔を上げると、そこには見知らぬ男が立っていた。
「え?あ、こんばんは」
何も考えずに返事をしてしまった。よく見れば派手な格好をしていて、目が怖い感じがする男だ。キツイ匂いが鼻を不快にする。
「ひとりなの?よかったら一緒に回ろうよ」
ナンパか。久しぶりにされたな。
「いえ、結構です。友達を待ってますから」
軽い口ぶりのナンパ男は断ったにも関わらず、私の横から離れずニヤニヤと見ている。どこ見てるんだこいつ。ナンパ男は私から離れず、次々に言葉を浴びせ続けてくる。私はナパ男から逃げたくて離れるように移動を続けた。
「じゃあ友達が来るまででいいからさ」
「お断りします」
「えー、いいじゃん。せっかくのお祭り、1人より2人でしょ」
ナンパ男が馴れ馴れしく私の肩に手をかけようとしてきたので振り払った。
「なんだよ。こっちは仲良くしてやろうってのに」
そこからナンパ男は豹変した。
「なにすんだよ。こっちが下手にでりゃいい気になりやがって。さっきからちらちらスマホ確認してんじゃん。どうせ一緒に行くはずだった男にドタキャンされて、寂しかったんだろ?だから俺が一緒に居てやろうってのに。人の親切なんだと思ってんだよ」
ナンパ男は急にドスの聞いた声で私に詰め寄り始めた。回りに助けを求めたかったが、脇目もふらずに逃げ続けた所為で、どうやら人気のないところに来てしまったようだ。
「なぁ、楽しませてやるからよ。いいだろ?お前だってこんなとこ来てんだし、そういうことだよな」
ナンパ男の両手が私の肩を掴んだ。痛い。大声を上げたかったが、怖くて声がでなかった。頭の中をいろいろなことがぐるぐると回って、身体もうまく動かない。
「おい、あんた。なにやってんだよ!」
どこからか別の、若い男の声がした。
「あぁん?」
振り返る男に釣られて私もそちらに目を向けると、体格の良い高校生ぐらいの男の子が立っていた。少年というよりは青年、男というにはまだ若い感じだ。その後ろには彼の胸の高さぐらいの身長の女の子が裾を掴んで、彼に隠れるようにこちらを見ている。
「その人、嫌がってるじゃないか。離してあげなよ」
「うるせぇな、ガキが。大人の話に首突っ込むんじゃねぇよ!」
凄むナンパ男に対して一切引かず、裾を掴んだ女の子になにか言うと、彼女は祭りの喧騒へと向かっていった。そして青年はズカズカと歩いてきて、私の肩を掴んでいるナンパ男の腕を掴んでひねり上げた。
「イテテテ!!」
「今、彼女が人を呼びに言ったぞ。どうするんだよ」
青年は力強い声でナンパ男に告げた。
「わかった、わかったよ!イテテ、離せよ!」
「どうするんだよ」
「イテテテ!うるせぇ!こんな女なんてどうでもいいんだよ!!」
「だから、どうするんだよ」
「クソガキが。イテテテ!!悪かった、俺が悪かったよ!!」
ナンパ男が吐き捨てるように謝ると、青年はナンパ男を突き飛ばした。
「クソガキ!覚えてろよ!!」
臭いナンパ男は捨て台詞を吐くと人ごみの中に消えていった。
開放された私はその場にへたり込んだ。と同時に、私を助けてくれた青年もへたり込んでいた。
「いやー、めっちゃ怖かった。大丈夫ですか、お姉さん」
青年は爽やかな笑顔で言った。よく見ると顔は汗でびっしょりだった。
「助けてくれて、ありがとう」
私は手提げからタオルを取りだして彼に渡した。
「ありがとうございます。お姉さん綺麗だから、1人だと危ないですよ」
お世辞をサラッと言うな、こいつ。モテ男か。
「実は約束してたんだけどすっぽかされちゃって…」
「え、そうなんですか。馬鹿なやつもいたもんですね~」
「ホントにね~」
ちょっとした笑いで少し調子が戻ってきた。
「でもよく気づいたね。こんなとこに居るの」
「あぁ、それは俺じゃなくて……」
青年が人ごみの方を見ると、さっきの女の子が大人を3人連れて戻ってくる姿が見えた。
「けーちゃん!大丈夫?!人呼んできたよ!」
「ありがとう、留美」
女の子は青年に走り寄った。
「大丈夫、大丈夫。お姉さんも大丈夫だったよ」
「はー、よかった」
ルミと呼ばれた女の子は、けーちゃんという青年の横に座ってホッとため息を付いた。
「それで、その怪しい男は?」
彼女と一緒にやってきた男の1人が私たちに聞いた。男たちは頭は白くて顔に皺も多く、年こそ結構いってそうだが、ハッピの上からでもわかるほど筋骨隆々だった。
「いや、逃げちゃいました。すいません、来てもらったのに」
「そうか。お姉さん、大丈夫かい」
「はい、彼に助けてもらって」
「悪いんだけど、どんな男だったか、事務所で聞かせてもらっていいかい?」
「わかりました」
私が立ち上がると、けーちゃんと呼ばれた青年も立ち上がった。
「あ、じゃあ俺も……」
「いいよ。私が被害者だし、私が話しておくから」
「いや、でも」
私はルミちゃんの方をちらりと見た後言った。
「せっかくのお祭りなんだし、楽しまなきゃ。私は1人だから、気にしないで」
「あー…、すいません。じゃあお願いします」
青年は頭をかくと、綺麗なお辞儀をして女の子と一緒に人ごみの中に消えていった。
私は屈強なおじさんに着いていき、事務所と言う名のテントで仔細を話した。事務所にはおじさんたちと違って派手なスーツを着てサングラスを掛けた怪しい男性が立っていた。私が話している間もじっと話しを聞くだけで、何も言わず耳を傾けているみたいだった。一通り話し終えると、お祭りなのに気分の悪いことがあって申し訳ない。こっちでも注意しておく。とのことで、私は事務所を出た。
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