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外の空気を胸いっぱいに吸うと、懐かしい記憶が蘇ってきた。
そういえば昔、似たようなことがあった。彼と付き合う前だ。
友達と遅くまで飲んだ帰り、しつこくナンパされている女性を見かけたのだ。かなりひどくて、女性は男に壁に追い詰められ逃げ道を断たれていた。女性は恐怖で逃げるに逃げられず、男は強引に女性をホテルに誘っていた。回りに助けを求めようにも、終電も終わった時間では人はまったく見られない。
私が見かねて出ていこうとすると、突然後ろから肩を掴まれた。そこには別の男性がいて私は声を上げそうになったのだが、その男性は口元に指を当ててシーッとジェスチャーした。
「このちょっと向こうに交番があるの、わかりますか?」
男性は私に言った。
「え、あぁ、通ってきたのでわかりますけど」
「じゃあ、すぐに行っておまわりさん呼んできてください」
「え?」
「僕、喧嘩弱いんで、ホント急いでくださいね」
ホント、頼みますよ、ホント。急ぎで。かなり急ぎで。
男性は何度も念を押すと、現場に向かっていった。すぐに男と口論になり、一触即発の空気となる。ドキドキしながら見守っていると男性が男に一発殴られた。私はハッとして交番に走っていった。
場所を伝えると、おまわりさんは私を置いて掛けていき、私が到着すると男は取り押さえられていた。
三人で事情聴取を終えると、外は少し明るくなっていた。
襲われていた女性は私達にお礼を言ってパトカーに乗って家へと帰っていった。私と男性は始発も近いのでそれを断って、交番を出た。
「いや、助かりました。ありがとうございます」
彼が私に頭を下げた。殴られた頬に湿布をはられた顔がちょっと痛々しい。
「あはは、まぁ、私も助かりました」
彼が殴られるまで見学してしまったことは、内緒にしておこう。この時それを固く誓った。
「2人でよかった。1人だと、どうしようもなかったですよね」
「そうですね」
「始発まで少しありますし、よければあそこでコーヒーでも飲みながら話しませんか」
彼は近くの早朝からやっているコーヒーショップを指差しながら言った。
「えっ?ナンパですか?」
「あ、いや、そういう……、そういうことなのかな」
「ふふふ。いいですよ。どうせ暇ですもん」
そして、今に至る、と。
なんというか、頼りになるんだかならないんだか。変なやつだなぁ、というのが第一印象だったなぁ。
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