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夏祭り
祭ばやしが鳴り響き、どこもかしこも人でいっぱいだ。親子連れに友達同士の一団、初々しそうなカップル。出店からは元気のいい声が聞こえ、子どもたちは浮かれて騒いで大人の人に軽く注意されていたりする。ソースの匂いと制汗剤の匂いがほのかに漂い、たまに酔っ払いからかお酒の匂いもする。そんな人ごみの中を流れに合わせてゆったりと歩く。
夏祭り。自宅の近くの神社で毎年行われている夏の風物詩だ。
この街に住むようになって三年目。最初はなんとなく、着の身着のままで参加したけれど、今や髪を結い上げ浴衣を着込み、気合バッチリで参加している。
ただ、ひとりで回っていることだけが毎夏と違った。一緒に来るはずだったアイツは仕事が立て込んで行けるかわからない、と連絡してきた。
前はどんなに仕事が忙しくても夏祭りには付き合ってくれたのに。理由を考えるたびにため息が溢れる。
今朝のことだ。ほんの些細なことでアイツと言い合いになった。いつもなら程よいところでどちらかが謝って終わるのに、私は引っ込みがつかなくなってしまって酷い事を言ってしまった。口から出たときにはすでに遅く、それからはもう大舌戦を繰り広げ、アイツはいつもの時間に家を出ていって休戦となった。
最初、私は悪くない、とイライラしていたけど段々と頭が冷えていくうちに、それでも言っていいことと悪いことがあるんじゃないか、言い過ぎたんじゃないか、と落ち込んでいった。
でも、アイツが悪いと思う。
喧嘩した日も悪かった。よりにもよって楽しみにしていた夏祭りの日に喧嘩しなくてもよかったのに。昨日とか、明日とか、もっと前とかもっと先にしたかった。
お祭りの不思議な高揚感で落ち込まずになんとかなっているけれど、それでもいい気分ではなかった。いつもなら脇目も振らず買いに走るたこ焼きも買う気にならない。客観的に見て、重症な気がする。さっきから何があるわけでもないのにチラチラとスマホを確認しているのが何よりの証拠だ。
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