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あの子の存在が、気になって仕方がなかった。
触れたかった。
でも、触れてはいけないと思っていた。
触れたら、お互いに傷ついてしまうような気がしたから。
それでも、あの子を目に入れるたびに、僕は手を伸ばしたくなった。
それほど魅力的だった。
誇り高い真っ赤な薔薇のように、何度も僕の目を釘付けにし、魅了した。
もどかしくて、むず痒くて。
実は一度だけ、指でそっと触れてしまったことがある。
そうしたら、もっと強く、あの子を自分の手でどうにかしてしまいたい欲求に駆られ、怖くなった。
己の弱い心が、情けなくなった。
以来、あの子のことを考えまい、忘れようと、僕はいつも以上に勉強や部活に打ち込んだ。
極力目に入れないようにした。
そうするうちに、その存在が、少しずつ小さくなっていくのを感じた。
それでいいと思った。
僕にとっても、あの子にとっても。
だけど───
ある朝、あの子が忽然と姿を消してしまった時、僕は大きなショックを受けた。
昨日はたしかにいたはずなのに。
一体どこに行ってしまったのだろう。
僕は必死にあの子を探した。
しかし、見つけられなかった。
どこにもいなかった。
悲しかった。
いくつもため息が出た。
僕はゆっくりと、自分の膝に目を落とした。
あの子がいた跡が、そこにはちゃんと残っていた。
僕の傷を癒し、役目を終えたと、去って行ったのだろう。
触れたくて触れたくて仕方がなかったあの子。
僕の───かさぶた。
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