3

9/9
113人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「かわいい~。」 「陽世里ひよりにそっくりでしょ?」  約二年ぶりの頼子は、長女の(あい)ちゃん(7ヶ月)を抱えて満面の笑み。  文化祭のステージが終わって、あたしは、頼子と涼ちゃんとで宇野君のクラスのお好み焼きを食べている。 「それにしても、すごかったわ。あんた、いつの間にあんな芸できるようになったの。」 「芸…」  ま、いいけど。 「それと、浅井君だっけ?すごいね。あのギターソロ。」  彼氏をほめられて、涼ちゃんはご機嫌。 「あ、頼子ー?」  ふいに、元のクラスメイト達が懐かしそうに頼子にかけよる。  生徒会長までしてたんだもの…忘れられるわけがない。 「るー、見たわよー。カッコよかった!!」 「あ…ありがと…」  ほめられるのって慣れてないから、なんだかくすぐったい。 「ま、なんだかんだ言って…るーが元気でよかったわ。」 「え?」  頼子は静かに笑いながら。 「元気なかったら、いい男を二、三人紹介しとこうかなって思ったんだけど。あたしが紹介するまでもなく、いい男に囲まれてて良かった。」  って。  頼子の言葉に思わず苦笑い。 「それにしても、廉がいい男になってるから驚き。」 「驚き?」 「中学の時とか、有名だったのよ~?荒れててねー。あたしは誠司が仲良かったからとりあえず仲良くなれたけど。悪いことはひととおりやったって感じ。」 「……」  丹野君が? 「ま、色々わけありっぽかったからさ。」 「そうなの…」 「好きなの?」  頼子の問いかけに、涼ちゃんまでがあたしの顔をじっと見る。 「な…なんで…」 「だって、なんかいい雰囲気だったわよ?廉ったら、バイオリン弾いてるるーを見つめちゃったりして。」 「あ、そうそう。」  涼ちゃんまで。  あたしは、見る見る赤くなってしまって…って、どうして赤くなるの!? 「いいんじゃない?あいつ、優しいし。」 「何がいいのよ…あたしは…」 「まだ、朝霧さん?」 「……」 「ま、まだ一ヶ月ぐらいだし、忘れられないか。」  頭の中では、ふっきれたつもりでいる。  でも、実際はー…そんな簡単には忘れられないんだなって…。 「ああ、そういえば、あんたんとこの親、すごかったわね。」 「言わないで…」  パパとママは、この日のために買ったというビデオカメラをふりかざして。  あたしのソロになるたびに、前に出てきて。 「るー!こっちむきなさいっ!」  パパが叫ぶもんだから緊張も通り過ぎて、冷汗が出てしまってた。 「ここにいたのかよ。」  噂をしてた丹野君が現れて、あたしはつい目を反らす。 「おっ、頼子。久しぶり。」 「元気そうね。」 「ああ…ちっけぇなー。」  丹野君は、愛ちゃんを指で触って笑った。 「そのうち大きくなるのよ。」  頼子は、あたしと丹野君を交互に見て。 「何、るーを探してたの?」  って… 「な…」 「お、そうだ。部室で写真撮るんだ。おまえも来いよ。」  丹野君はそう言って涼ちゃんを手招きした。 「あたしも?いいんですか?」 「おまえはカメラ係。」 「ちぇっ。」 「嘘。晋の隣に特別入れてやっから来いよ。誠司も勇二もいるし。」 「あっ、誠司め。いないと思ったら。」  今はロンドンで暮らしてる頼子。  離れてるけど、連絡だけはずっと取り合ってるからか…今もここで生徒会長をしてるような錯覚に陥ってしまう。  だけど、腕に抱かれた愛ちゃんを見て、頼子の今を思い出す。 「じゃ、あたし帰るわ。」  頼子が立ち上がった。 「もう?」 「うん。空港から直接ここに来ちゃったしね。母さん待ってるから。」 「今夜電話する。」 「ん。」  頼子が七生の跡継ぎじゃなかったら…なんて、考えてもどうしようもない事だけど。  それでも、一緒に文化祭を盛り上げたかったな…と思った。  仕切り屋でお祭り好きの頼子がいたら、どんな文化祭になってただろう。  ステージで本格的なファッションショーでもやってたかもしれない。  一人、そんな事を思いながら、頼子に手を振る。 「さ、部室行くぜ。」 「うん。」  迎えに来てくれた丹野君の後ろについて、あたしと涼ちゃんは部室に向かう。  途中、何人かに『サイコーだった!!』ってハイタッチを求められた丹野君は笑顔で。  あたしは…その笑顔に、なぜかホッとした。  …色々あって荒れてた、って聞いたからかな…  でも、それを知らなかったとしても、丹野君が笑ってくれてると…ホッとするあたしがいる。 「ええええ…お酒?」  部室に入ると、みんな酔っぱらってて。 「硬いこと言うなよー。打ち上げ打ち上げ。」  みんなは楽しそうに、紙コップを持ち上げた。 「……」  首をすくめながら、イスに座ると。 「じゃ、みんな揃ったところで、記念写真撮ろうぜ。」  八木君が、カメラをセットした。 「それじゃ入んないよ。もっと中に寄れって。るー、も少し中。」  八木君に言われて体を中に寄せ… 「……」  丹野君に、肩を組まれて…思わず体が硬直する。 「よーし、いくぞー。」  セルフタイマーの点滅の灯を見てたら、ボーッとしてきちゃった。  肩が…熱い。  カシャッ。  シャッターの音。  少しだけホッとして動こうとしたらー…まだ、肩に丹野君の手。 「…何?」  オドオドしながら見上げると。 「いや…バイオリン、ありがとな。」  って丹野君は優しい目で笑ってくれた…。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!