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『あ、もしもし、俺。悪いけど、明日の映画無理やわ。ほな、またな』 「えっ?あ、真音(まのん)、ちょっ…」  ツーツーツー。 「…切れた…」  あたしは唇を尖らせて受話器を置く。  真音(まのん)と付き合ってるっていう形になって、五ヶ月。  この五ヶ月の間に…色んな事があった。  だけど、どうにかそれらも乗り越えてきた。  世の中はクリスマス一色。  街を歩けばカップルや家族連れ。  そんな中あたしは…毎日一人で登下校している。  今までは…幼馴染の頼子(よりこ)と、『今年のクリスマスはどうする?』って色んな計画を立てて、プレゼントもお互いのために買って。  頼子(よりこ)の家で、楽しいクリスマスを過ごしてた。  と言うのも…  あたしの家は、パパが指揮者でママがピアニスト。  毎年、クリスマスは国内か海外かでステージに立ってる。  …頼子(よりこ)とのクリスマスは…毎年楽しかった。  それが、今年は…  今年は、あたしの人生が一変する出来事があった。  共学高校に進学して…  頼子(よりこ)の友達である、宇野(うの)君と瀬崎(せざき)君と仲良くなった。  そして、一緒にライヴハウスに行って…  …出会ってしまった。  今や、あたしの彼氏となった…真音(まのん)に。  男の人に免疫がなくて、男の人どころか…初対面の人は女性も苦手なあたし。  そんなあたしが、まさか…  ロックバンドでギターを弾いてる、人気者の真音(まのん)と付き合う事になるなんて。  それだけでも天地がひっくり返っちゃうような出来事だったのに。  …頼子(よりこ)が…  学校を辞めて、結婚した。  今はロンドンで新婚生活を送っている頼子(よりこ)とは、電話と手紙のやりとり。  だけど、何だか頼子(よりこ)とも世界が違ってきちゃったな…って感じてる。  取り残された気分って言うのかな…  …でも仕方ないよね…  頼子(よりこ)はもう、学生じゃない。  跡取りとして、仕事を始めてるんですもの。  離れたって感じるのも仕方ない。  住む世界が変わってしまったんだから…。  テレビからは、最近流行りの歌謡曲。  細い女の子が『まだ16だから』って歌ってる。  あたしも16だから…この子が歌ってる歌の、どこか夢見がちな内容は分からなくもない。  むしろ、あたしにはまだそっちの方が似合う気さえする。  真音と付き合うのは、背伸びじゃないのかな…  小さく溜息。  映画のキャンセルは、これで五回目。  最初は…真音(まのん)も目の前で両手を合わせて、申し訳なさそうに謝ってくれてたけど…  さすがに五回目ともなれば…電話で一方的に断られるようになった。  …いつもバンドの事が絡んでる。  仕方ないのよ。  真音(まのん)の夢だから。  頭では分かってるんだけど…  でも、本当は寂しい。  好きな人と一緒に過ごしたいって思うのは、当たり前の気持ち…だよね?  あたしがワガママなのかな…  だけど、せめてクリスマスぐらいは…一緒に過ごしたいな。
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