114人が本棚に入れています
本棚に追加
1
『あ、もしもし、俺。悪いけど、明日の映画無理やわ。ほな、またな』
「えっ?あ、真音、ちょっ…」
ツーツーツー。
「…切れた…」
あたしは唇を尖らせて受話器を置く。
真音と付き合ってるっていう形になって、五ヶ月。
この五ヶ月の間に…色んな事があった。
だけど、どうにかそれらも乗り越えてきた。
世の中はクリスマス一色。
街を歩けばカップルや家族連れ。
そんな中あたしは…毎日一人で登下校している。
今までは…幼馴染の頼子と、『今年のクリスマスはどうする?』って色んな計画を立てて、プレゼントもお互いのために買って。
頼子の家で、楽しいクリスマスを過ごしてた。
と言うのも…
あたしの家は、パパが指揮者でママがピアニスト。
毎年、クリスマスは国内か海外かでステージに立ってる。
…頼子とのクリスマスは…毎年楽しかった。
それが、今年は…
今年は、あたしの人生が一変する出来事があった。
共学高校に進学して…
頼子の友達である、宇野君と瀬崎君と仲良くなった。
そして、一緒にライヴハウスに行って…
…出会ってしまった。
今や、あたしの彼氏となった…真音に。
男の人に免疫がなくて、男の人どころか…初対面の人は女性も苦手なあたし。
そんなあたしが、まさか…
ロックバンドでギターを弾いてる、人気者の真音と付き合う事になるなんて。
それだけでも天地がひっくり返っちゃうような出来事だったのに。
…頼子が…
学校を辞めて、結婚した。
今はロンドンで新婚生活を送っている頼子とは、電話と手紙のやりとり。
だけど、何だか頼子とも世界が違ってきちゃったな…って感じてる。
取り残された気分って言うのかな…
…でも仕方ないよね…
頼子はもう、学生じゃない。
跡取りとして、仕事を始めてるんですもの。
離れたって感じるのも仕方ない。
住む世界が変わってしまったんだから…。
テレビからは、最近流行りの歌謡曲。
細い女の子が『まだ16だから』って歌ってる。
あたしも16だから…この子が歌ってる歌の、どこか夢見がちな内容は分からなくもない。
むしろ、あたしにはまだそっちの方が似合う気さえする。
真音と付き合うのは、背伸びじゃないのかな…
小さく溜息。
映画のキャンセルは、これで五回目。
最初は…真音も目の前で両手を合わせて、申し訳なさそうに謝ってくれてたけど…
さすがに五回目ともなれば…電話で一方的に断られるようになった。
…いつもバンドの事が絡んでる。
仕方ないのよ。
真音の夢だから。
頭では分かってるんだけど…
でも、本当は寂しい。
好きな人と一緒に過ごしたいって思うのは、当たり前の気持ち…だよね?
あたしがワガママなのかな…
だけど、せめてクリスマスぐらいは…一緒に過ごしたいな。
最初のコメントを投稿しよう!