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「頼子、おめでただって?」  高校二年生になって三ヶ月。  クラスはそのまま持ち上がり。  またもや後ろの席にいる宇野くんが、授業中小さな声で言った。  そのニュースは、学校中を賑わした。  ただでさえ、突然の学生結婚。  しかも生徒会長だった頼子は、ある程度の形をちゃんと作って、副会長にきちんと引き継ぎをしてからの退学だったけど…  それでも、やっぱり…妊娠ともなると、相当なゴシップとなってしまった。    今思えば、結婚は早くから決まってたんだろうな…  毎日会議会議って…  頼子は、ちゃんと準備をしてたんだ。 「うん。11月に生まれるんだって。」 「あいつが母親ってのもなー…なんかイメージが。」  一緒にライヴで飛び跳ねてたイメージしかないのか、宇野君の中での頼子は『じゃじゃ馬』らしい。 「でも、すごく頭のいい子が生まれそう。」 「それは言えてる。」  同級生の男の子となら、なんとか普通にしゃべれるようになったあたしは、なんと、このたびクラブに入った。  浅井くんの執拗な勧誘があったのも手伝って「軽音楽同好会」に入部してしまったのよ。  その同好会には、浅井君が組んだっていうバンド『FACE』も…って言うか…同好会に所属してるバンドは『FACE』だけ。  だけどその『FACE』、何度かダリアでライヴをしたみたいなのだけど…  大当たり。だそうで。  もしかしたら念願のプロデビューも夢ではないかも…なんて。  浅井君が自分で言ってるだけだから、分かんないけど。  Deep Redの大ファンである宇野君と瀬崎君が言うには、『FACEも結構イケてる』そうだ。  だけどー…  何となくだけど、世の中はフォークソングかポップな歌謡曲が主流なイメージ。  真音のメジャーデビューが国外で…って言うのは、バンドは日本では受け入れられないのかな…って思った。  だって…Deep Redは、全歌詞英語だし…  ヒットソングを紹介する番組に、バンドもチャートインはしているけど…  Deep Redとは、毛色の違うバンドばかり。  …音楽って、ロックとかハードロックとかって言っても、幅が広いんだな…って思った。 「るー、そういえば文化祭でバイオリン弾くって?」 「…誰が言ってた?」 「(しん)。」 「もー…まだOKしてないのに…」 「あはは、あいつらしいな。」  あたしは、同好会に入って。  とりあえずー…楽器の手入れとか、雑用係をしている。  時には、ママにお願いして曲の流れを一緒に考えたりとか…自分で楽器をいじったり、歌ったりはないんだけど。  それでもママは、あたしが音楽に興味を持ったのが嬉しいらしくて、全然お金にもならない学生の頼み事を、喜んで引き受けている。  浅井くんはあたしを。 「おまえは音楽センスあるんやから、なんかせえよ。もったいない。」  って、ムリヤリ同好会に引き入れた。  入ってみると、みんないい人だし楽しいんだけど、楽器には全く興味がわかなくて。  だけど、しいて言えば、昔やってたバイオリン。  懐かしくて、少しだけ弾いてみたところ。 「すっげえ。今度のライヴ、うちのバンドで一緒に演ろや。」  って、浅井くんに言われて。  まだOKもしてないというのに、あたしが文化祭のステージに立つ。って噂だけはまことしやかに囁かれているらしい。 「マノンに言わねーの?クラブに入った事。」  真音と距離を置いてる事、宇野君達は知ってる。  隠し切れずに告白してしまった。  アメリカに行く前に…会いに来てくれた事。  そして…指輪をもらった事。  あたしは終わらせたつもりだったけど…真音は、そうじゃない事。 「んー…だって、入っただけで何もしてないし…」  あたしからは全然連絡を取っていないけど、真音からは毎月手紙が来る。  先月は、ナッキーさんと一緒の写真を送ってくれた。  真音を試してるわけじゃない。  だけど、まだ自信が持てない。  あたしにふさわしい男になる。って宣言してくれた真音。  …あたしは…?  真音にふさわしい女の子になれる…?  右手の薬指に光る指輪。  この指輪の魔法は、いつになったら効くんだろう…。
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