彼がいなくなった……

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彼がいなくなった……

 月曜日。  私は、いつものように登校し、いつものように、「おはよう!」と、クラスメイトたちと挨拶を交わし、いつものように席に着いた。  朝のホームルームのチャイムが鳴り、いつものように、担任が教室に入って来た。  いつも私の席の前にある、大きな背中がまだ来ていない。今日は珍しく遅刻か? それとも、体調でも崩して欠席か? 「起立!」、「礼!」、「着席!」、日直の号令で、いつもの朝の挨拶を、担任とみんなで交わした。 「え~っと、ちょっと、みんな、静かにしてくれ~! 今日は、まず、みんなに報告があります!」  担任がそう切り出すと、誰からともなく、「えっ、何や何や? もしかして、先生、結婚すんの~?」、「キャーッ!」、「相手は人間?」と、みんな好き勝手に発言して、ワァ~っと盛り上がった。 「ハハハッ、そんな報告やったらええねんけどな~♪ そんときゃ、みんな、祝儀弾んでくれよ~♪ ハッハッハ~ッて、いや、違うねや。実は、桜坂雅治(さくらざかまさはる)が、親御(おやご)さんのお仕事の関係で、急遽(きゅうきょ)、転校することになりました」 「えーーーッッッ!!!」  クラスのみんなに動揺が走った! 「みんなの顔を見ると、別れがつらくなるのでと、手紙を預かって来た!」 「で、桜坂は?」 「昨日の飛行機で、アルゼンチンへと旅立ちました!」 「えーーーッッッ!!! 地球の反対側ッ! めっちゃ遠いやんッ!」  そ、そんな……。急にいなくなるなんて……。  先週末まで、私の席の前にあった、たくましい大きな背中。週が明けて、机とイスだけが、ただ、そこに、ポツン……。  心にポッカリ穴が()くって、こういう感覚なんだ……。  涙が(あふ)れそうになった。  だけど、私が彼のことを好きだったなんて、誰も知らないから、泣けなかった……。苦しかったけど、グッと(こら)えた。  彼に、気持ちを伝えることもなく……、さよならなんて……。そんなの、つら過ぎるよ……。せめて、気持ちを伝えて、フラれていたなら、諦めもつくし、気持ちの整理だって……。ひどいよ……。  彼からクラスみんな宛の手紙を、担任が読み上げていた。だけど、茫然自失(ぼうぜんじしつ)の私の耳には、もう、何も、入って来なかった。  その後、授業内容なんて、全然頭に入って来なかった。  早く家に帰りたかった。  とにかく、早く家に帰って、自分の部屋のベッドの上で、バスタオルと布団にくるまって、思いっきり泣きたかった。人目を気にすることなく、思いっきり……、泣きたかった……。  こんなにも、彼のことが好きだったなんて……。彼が急にいなくなって、私の心の奥底にある、彼への深い思いに気づくなんて……。 ー 翌朝 ー  いつものように、朝のホームルームが始まった。  私の席の前の、ポッカリと空いた席を眺めながら、彼のことを思い出していた。  テストのとき、消しゴムを忘れた私に、「コレ、使いな」と、自分の消しゴムを半分に割って、さりげなく貸してくれた彼。  私がシャーペンを落としたとき、サッと拾って、サッと自分のハンカチで拭いて、「はい」って、やさしく渡してくれた彼。  そんな彼のやさしい笑顔、そう簡単に忘れるなんて出来ないよ……。  忘れるなんて……。  桜坂くん……、今、あなたは、どこで、何をしているの? 私、あなたのこと、忘れられなくて、苦しいよ……。私……、つらいよ……。 「……で、今日は、うちのクラスに新しいメンバーが加わることになりました!」 「え~~~っ、先生、うちのクラスに転校生?」 「醤油(しょゆ)こと! で、おもしろいことに、転校して行ったのも雅治やったけど、今度、転校生して来たのも雅治や! さ、入って来て~!」  クラスがワイワイガヤガヤとする中、 「失礼しま~す!」  と、転校生が教室に入って来た。 「はじめまして、長崎から転校して来ました長崎雅治(ながさきまさはる)です。よろしくお願いします!」  超~~~ッ! イケメンッ!   来たーーーッッッ!!!  渋い、色気の、甘い声ッ!  私の前の空席に座って、「長崎です♪ よろしくです♪」  ……ってさ♪  クゥ~~~ッ! 私は彼に恋をした! 恋をしたったら、恋をした!  女心と秋の空?  秋じゃなくても変わるのよーんッ!  え~っと、ここの空席って、この前まで、誰が座ってたんだっけ?  速攻、忘れちった♪
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