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娘とわたし
カステラを持って、あいつの家に行く。
あいつ、高田は甘いものが嫌いなのに、カステラだけはよく食べる。
右手に土産の袋を下げ、左手で幼い娘の手を引いた。
高田の家までは早足で十五分。娘と歩くなら、二十分はかかる。
娘のふたつに結った髪が、歩く度に揺れた。毎朝、妻が娘の髪を束ねようとすれば、「赤いリボンをつけてね」と駄々をこねる。
まだ四歳なのに、おしゃれさんだ。
「お父さん。そのカステラ、あたしも食べていいの?」
「ああ、みんなで食べようね」
娘は十歩、歩くごとにカステラのことを尋ねる。
高田のためと思って買っていたカステラは、娘の好物にもなった。
高田の妻がいた頃、彼の家の日曜のおやつはホットケーキだった。
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