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ホットケーキ-日曜の菓子-
うまそうに食べる自分の息子の横で、「カステラがいいのに」と高田はよく呟いていた。
メープルシロップがかかっていないところだけを食べて、残りは息子にやっていた。
五歳児が二人前の菓子を食べられるわけがない。
残り物は、家を訪れていた私にまわってくる。
「仕方ない」と言いながら、私は食べる。
高田が口をつけた分も、高田の息子が食べ残した分も、高田の妻が私のために用意した分も、私が食べてきた。
いつも私の腹は満たされていた。
独り者の私には、ありがたいごちそうだった。
横で昼寝をする高田を見ながら、私はホットケーキを食べる。
午後の日差しを受けると高田の色白い肌は、いっそう際立つ。
若々しくて、一児の父には見えない。
彼は、私と出会った十五の頃から変わっていないのではないか。
ホットケーキを咀嚼しながら、私は高田の寝顔を見つめていた。
気づけば、自分の唇を舐めていた。
あまったるいメープルシロップのせいだと、私は言い聞かせた。
何の感情でもない。
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