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『御屋形様』が、『一時停止』で止まったままの、優人を見つめる。
「…目の光を見ればわかる
彼は、将直(まさなお)の生まれ変わりだね…」
『御屋形様』は私に微笑んだ。
「今生こそ…そなたは幸せになれる」
『御屋形様』は笑って、私の痣にーー左手の甲に口づけをした。
「…そなたを、愛していた」
去り際に小さく呟かれーー
青年はスッと離れていく。咄嗟に振り向いた。
「御屋形様…!」
その瞬間、街が色づき、再び動き出した。
「御屋形様…!!」
青年の姿は雑踏にスッと消えた。人の波にカラダが押される。
「來未?」
私の手は優人にしっかりと繋がれ、動こうとしない私を不思議に思ったのか、優人が振り向いた。
「うあ…!なんで泣いてんの?」
驚いた優人はーー私の肩を後ろから包むように人波から守ると、スクランブル交差点を歩いていく。
「う…ひっく…ひ…っく…」
渡り終えると、優人は人の波から外れてーー建物の影に私を導いた。
「どうした?
來未、何があった?」
私の顔を覗き込むその目は、本当に純粋に心配してくれていて…
「優人…」
胸に顔を埋めて、ひとしきり、泣いた。
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