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泣き終わると、私は何で泣いていたのかーー思い出せなかった。
優人はそういう私にやっぱり優しく微笑んでーー
「交差点を渡る前に言いかけたこと、言ってもいい?」
「ん…?」
見上げると、少し緊張している、優人。
「俺も、夢を見るんだよ」
「…夢…」
「來未が…他の男の嫁なんだ。
俺はずっと來未を好きで…
でもその、他の男…來未のダンナのこともとても大事で…
ずっと、ずっと1人で生きるんだ。ずっと、ずっと來未と、來未のダンナを大事にしながら」
「…」
初めて聞く話に、じっと耳を傾けた。
「そんな夢を見た時、目が覚める度に嬉しいんだ」
「…嬉しい?」
きょとんとする私に、優人は赤くなる。
「…この世界では、來未は俺の…恋人だから…」
赤い顔でじっと見つめられてーー私も赤くなった。
「…結婚しよう…結婚、してください…」
両手を包まれる。
「…はい」
赤くなってこくんと頷く。プロポーズしてもらうのは確か、4回目だ。
優人はニコッと眩しいほど笑ってーー私も、笑った。
あれから、私も優人も、夢を見ない。
よく見ていた夢が、どんな夢かも、忘れてしまった。
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