ヌケル、信号を急ぐ

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ヌケル、信号を急ぐ

1 人ごみに紛れて急いで渡る を選んだヌケル。 「俺は幼い頃から何をやるにも遅い!遅い!と言われ怒られてきた。だから俺は急ぐ。人ごみの中でも急ぐ。それがトーキョーシティのジャスティス」 ヌケルはそうつぶやいて、横断歩道のやや駆け足気味な人ごみに突っ込んだ。 だが、ヌケルは焦り過ぎていたのだ。 人ごみの中にいた1人の老人にタックルしてしまい、老人が横断歩道の真ん中で転んだ。 ヌケルは焦り、急いで老人を助け起こし肩を貸してなんとか横断歩道を渡りきった。 車の群れが動き出し、かろうじてひかれずに済んだ人ごみ達はギリギリの日常を感じる暇もないまま、足早に散らばる。 ヌケルは老人を心配した。 「すみません、ぶつかって転ばせてしまいました」 ヌケルは丁寧に謝った。老人は、頭を振り笑顔を見せた。 「気にしなくていいんじゃよ。肩を貸してくれて無事に渡れたのじゃ」 老人のその言葉に、ほっと安堵したヌケル。 だが、次の瞬間に老人は鬼の形相になった。 「今日は無事に渡れたが!足が骨折したんじゃ!老人は骨がもろいんじゃ!老後に2千万円必要だと言われているこの時代にワシは金がない!治療費が払えないんじゃ!弁償しろ、この頭ヌケサクが!」 老人の激しい怒りと折れた足の説得力にかなわず、ヌケルは治療費を払い破産した。 そして金をもっと稼ぐ為に無理して連勤して身体を壊して死んだ。 ゲームオーバーだ。 こんなものだ。横断歩道で点滅していたら一旦立ち止まるしかない。人ごみに惑わされてはいけないのだ。選択肢を選び直そう。
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