レモンシャーベット

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 駅前広場のベンチで友人の到着を待っている。  駅は特別大きい駅ではない。快速電車が停まる住宅街の駅だ。最近は、老人ばかり増えて小さい子どもは大分減ったように思う。  だからなのかは知らないが、お盆の時期になると駅前は混雑するようになった。  昼間も静まり返っている住宅街もこの時期ばかりは子どもの声や笑い声が溢れかえる。  隣の家は、バーベキューでもするのか朝から炭に火をつけて、炭独特な匂いをさせている。  ケータイの画面を付けて時間を確認した。十六時を少し過ぎたぐらいだ。友人の到着が二十分位らしいから、もう少し時間はあるのだろう。  ため息一つ、ベンチの背もたれに体重をかける。正直言って憂鬱だ。友人に会うのにも、今の身の上を話すのも。  一週間前、友人からメールが届いた。そいつは高校卒業と同時に東京の大学に行くとかで地元から出て行った奴だ。当時は今みたいに連絡用のアプリなんてなかったから、メールアドレスを交換して終わりだった。  俺はすっかり、メアドを交換したことすら忘れていたが、急にメールが来た。  用件としては、お盆に帰るから迎えに来て欲しい、というものだ。家族には連絡してあるが、俺が迎えに行くからと迎えは断ったらしい。  俺が断るとは微塵も考えていないあたり、図々しいと思ったが、断る理由もないから了承した。  俺が断ることも考えない、そんな奴だったなと思い出していた。  駅から人が吐き出されるように出てきた。  日差しが和らぎ始めた、午後四時。それでも暑いのは変わらずだ。  駅から出てくる人で広場は、混雑し始めた。甲高い子どもの声に、暑いだの、疲れただのという大人の声が混ざる。  駅の出入り口を見ていたが、アイツの姿が見つけられない。この位の時間に到着する列車だったはずだ。  今さっき着いた列車か、次に来る列車のどちらかなのだろう。幸い、今の俺は時間に追われることもない。  ため息が出る。背もたれに預けていた体を少し伸ばす。最近は年を取ったのか、体が強張りやすい。高校の時は、などといった所で時間が戻ることもない。  目の前を通り過ぎた女性と目が合った。少し嫌そうな顔をして、子どもの手を引いて足早に立ち去っていく。  俺の恰好は無精ひげにくたびれたTシャツ、履き潰したスニーカー、さながら浮浪者だ。子どもの手を引いて立ち去りたく気持ちも分かる。  手を引かれる小さな子どもが、アイス、アイスとごねていた。  子どもの指が指す方向を見れば、人ごみの中で、人だかりが出来ていた。  アイスの移動販売車だ。小さな旗を二つ程出している。  子どもが小銭を握り締めて並んでいる。その後ろに親と思われる大人が立って、メニューを指さして何かを言っているようだ。  穏やかで、平穏な時間だ。俺だって、あれくらいの年の頃はこんなになるなんて考えてもなかった。  ポケットに入れていたケータイを取り出す。時間の確認と、アイツが何時に着くのかを確認するメールを打つためだ。  画面から目を上げると、子どもが二人アイスのカップを持って走っている。  そういえば、アイツはレモンシャーベットが好きだったな。  学校が終われば、二人で自転車漕いでアイスを買いに行った。蝉の鳴き声がうるさい位に響いていた。  アイツはいつもレモンシャーベットで、俺は色々買っていた。 店の前の縁石に座って、いつも一口あげていたっけ。アイツも一口くれるから、自分ではレモンシャーベットは買わなかったな。 夏休みになると毎日のように買いに行っていたから店のおばちゃんに覚えられていて、アイツが店に入ると、レモンシャーベットを出す準備をしていた。  到着時間を確認するメールは送ったが、返信はない。気長に待ってやるかとケータイの画面を消した。  すると、目の前に影が出来た。  背の高い、まぁ世間一般から見ればイケメンの範囲に入る男がアイスのカップを両手に持って立っている。 「ただいま」 「おう、思ったよりはやかったじゃねぇの」
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