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正直に言った。
隠しても意味がないと思った。これでかなみとは関係性が壊れてしまうのだとしても、嘘をつくことは出来なかった。
「そう。」
かなみは服の裾を離した。
しばらく沈黙が続いている中、エレベーターが再びやって来たので二人で乗った。お互い、表情を確認することはなかった。3階でエレベーターの扉が開くと、かなみは降りるなり、言った。
「変なこと聞いてごめんね。また明日!」
エレベーターの扉が閉じた。
かなみはいつもの元気な声に戻っていた。顔は正直ちゃんと見られなかったのでどんな表情をしていたかわからなかった。
また明日、と言っていたけれど、明日、どんな顔をして会えばいいのか見当もつかなかった。
かなみはスカウトの話を受けること、あえて平沢には相談しなかった。平沢に相談したかったけれど、相談するとその意見に乗っかってしまう気がしたからやめた。もちろんそれなりに悩んだ。春には受験生になる。「興味がある」、程度でやっていける世界ではないということは重々承知していた。だからこそ、受けることにした。真剣に取り組んでみようと思った。新しい何かが見えるかもしれない、と期待した。モデル活動を始めてから、思ったよりすぐファンがついた。人気、というにはまだ早いかもしれないけれど、少しの人でも応援している声が届くことはとても嬉しかった。ゆっくりではあるが、応援している人が増えていくことにやりがいを感じていた。洋服の魅せ方を考えたりするのも純粋に楽しかった。スカウトの話を受けてよかったと、心から思っていた。一つの問題を除けば。
かなみは、この活動を平沢が応援してくれると思っていた。
今までかなみは将来の夢や、やりたいことは全部包み隠さず平沢に話してきた。それらの話を平沢は一度も否定したことはなかったのだ。
だから平沢の反応に戸惑った。最初は態度の違いが突然すぎて、何が原因か全くわからなかった。モデル活動自体が気に食わないのだと薄々感じ始めたのは少し経ってからのことだった。それはそれで否定する理由が全く思い浮かばなかったので、関係性を元に戻す方法もよくわからなかった。だけどかなみはくじけなかった。モデル活動を始めたことによって、平沢と距離が出来てしまったら、スカウトを受けたこと自体に後悔が生まれてしまう。モデルをして良かったと心から思うためには、平沢から目を背けるわけにはいかなかった。
そう決めたはずなのに、平沢の態度に我慢の限界が来ていた。怒りの感情は全くないが会話をして生まれてくるのは悲しみばかりだった。
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