0人が本棚に入れています
本棚に追加
昨日の別れ際の突然の質問、平沢にとってはとても大きな出来事だった。
物心ついた頃には当たり前の様に隣にはかなみがいた。一緒にどろ遊びをして洋服を汚して母にはしょっちゅう怒られた。怒られている平沢たちを見て、かなみの母は「あんたたちバカね~。」とゲラゲラ笑っていた。その笑った顔がかなみは大好きで、よく一緒におふざけをした。代償として同じ回数母に怒られもしたけれど、母も怒っている割にはそこそこ楽しそうなのは伝わってきていたので、あんまり嫌な気はしなかった。小学校に上がる頃には自転車の練習をした。かなみは全然上達しなくて大泣きしていた。だけど決して練習をやめようとはしないその姿に、幼いながらに見惚れてしまっていたのを今でも覚えている。夏休みの一行日記では「けーぞーとひまわりの写真撮りに行った」とか「けーぞーが前髪切られすぎてた」とか「けーぞーの寝相悪すぎて思わず絵に描いた」などばかりだった。そのくらい一緒に日々を過ごしていたという証だった。
そんなたくさんの思い出のうち、強烈に覚えていることがある。それは小学5年生の時だった。
*
「かなみ、夢が出来たの。」
真夏日を更新した夏の日で、扇風機が一生懸命部屋に風を送ろうと首を振っていた。蚊取り線香の香りがほのかに香る、かなみの部屋だった。
かなみはベッドの下から何やら大きなものを取り出した。それは真っ白の布が被っていて何だか最初はわからなかった。
「あのね。」
「うん。」
「画家になりたいの。」
「画家?」
予想していなかった職業だった。
だけど、なぜか妙に納得している自分もいた。
つい大きな声を出したからか、かなみは慌てていた。
「しー静かに。ママに聞かれちゃうでしょ。」
「聞かれちゃまずいの?」
「ある程度結果を出してから発表したいの。今はまだ練習中だから内緒。」
「じゃあ、これは絵?」
平沢がベッドの下から出してきてモノを指さすとかなみは黙ってうなずいて、上に被っていた布をとった。
最初のコメントを投稿しよう!