応援して。全部叶えるから。

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 目玉の作品の前に来ると、かなみは思わず小さな声で「綺麗……。」とつぶやいていた。平沢はつい、「そうだね。」と口にしそうになったけれど言うのはやめにした。今は自分の存在を忘れて、絵だけを見てもらいたいと思ったからだ。感想は美術館を出てからいくらでも言い合えばいい。  美術館を出るころには朝ひどかったかなみのクマはだいぶ薄くなっていた。 「すごく良かった!」  かなみは太陽の光を浴びるなり言った。いつもの元気な声だ。 「まずさ、一枚目のあの作品、ズルくなかった? 一気に世界観に惹きこまれた! 美術展って描いている人だけじゃなくて、展示の順番とか、配置をしている人もすごく芸術的感性があってこだわっているんだなーって思ったの。あと美しい引き算がなされたうえでのあの細かな絵! なんて繊細なんだろう。けーぞーはどう思った?」  興奮冷めやらぬ、といった勢いでかなみは語った。 「そうだな、確かにこだわってるなとは思った。俺は階段上がってすぐの絵が……。」 「ちょっとごめん、けーぞー。」 「なに。」 「色々語りたいんだけど、おなかすいた!」 「とりあえず、どこか入ろうか。」  平沢が提案するとかなみは嬉しそうにうなずいた。  かなみは美術館に行けたからここまで喜んでいるわけではない。なんだかすっかり平沢が本来の平沢に戻った気がして嬉しくなっていたのだ。  かなみがモデル活動をする前のけーぞー、にしか見えなかった。具体的に何が違うとかは言葉に出来ないけれど、明らかに違った。  そんな理由で喜んでいるなんてこと、平沢は知る由もないけれど。  近くの洋食屋さんに入ると早速ミートソースパスタとハンバーグランチを注文した。  かなみが美術展の感想を語っていると、あっという間に料理は運ばれてきて、そして運ばれてきてからは一切会話をせず口に頬張った。空腹は何にもかなわない。 「かなみ。」  平沢は食べる手を突然止めた。 「ん?」  かなみはパスタを頬張ったまま、顔を上げた。 「今まで、色々ごめん。」  平沢はかなみの目を見て言うと、頭を下げた。  かなみの目をきちんと見たのはいつぶりだろうか。  とても綺麗な茶色い瞳だった。
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