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「一人でいると、こんなんじゃないのに……淳史がいると、不安になったり怒ったり――」
「それは、もしかしたら」
文彦は答えを早く聞きたいように、潤んだ瞳を上げて、淳史を見た。それへと、淳史はふっと笑った。
「もしかしたら、俺にはそうしても大丈夫って思ってくれているのかもしれない。そうだったら……いい」
「大変だよ。淳史も、俺も」
文彦は眉を寄せて憮然とした。
「文彦が今まで怒っていなかったぶんを今、怒ったっていいと俺は――思うよ」
ごく生真面目にそう話した淳史を、文彦は初めて見るように、瞳を瞬いて見直した。
淳史は丁寧にアルバムをカバーに入れると、ゴミ袋を片手で持った。
「さあ、帰ろうか」
「淳史――」
文彦は何かを吹っ切るように、軽やかな仕草で駆け寄った。その肩に腕を回して抱きつき、頬をすりつけた。
「一緒にいて、淳史」
淳史はそれへ応えようとしたが、できなかった。文彦が素早く、その首筋をひっつかんで引き寄せると、唇を軽く触れ合わせたからだった。文彦の両手が首筋から耳朶をくすぐり、頬へとすべって囲っていく。淳史は心地よさそうにそれを受けて、微笑みを浮かべた。キスした後に、二人はしばらく額をくっつけて、無言の波に漂っていた。
「今度、二人で写真でも撮ろうか?ちゃんとカメラマンに頼んで。今の文彦も、一番綺麗な表情でずっと残しておきたい。来年も、その先も、ずっと。ナツに相談しようかな」
考え出した淳史に、文彦は笑った。
「淳史は、相変わらず可笑しい人だ」
「知らなかったのか? 文彦にはずっとクレイジーなんだ」
顔を見合わせて笑って、二人は何も残らない部屋を後にした。
窓の外を、冬の梢を鳴らして風が吹き過ぎていった。
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