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どうするべきか逡巡する表情を浮かべていたが、やがて淳史は外へと出るべく部屋のドアを開けかけた。かすかな音がして、淳史は振り返った。床に座り込んだ文彦が、最初のページから力を込めて破り始めていた。
「文彦!」
淳史は慌てて駆け寄ると、腕ごとつかんだ。
「馬鹿げてる――」
文彦が抵抗するのへ、淳史は羽交い絞めて何とか止めた。しばらく揉み合っていたが、ウェイトの差もあって文彦のほうが分が悪かった。普段には見られない手荒さと、力任せの抵抗をして、文彦の顔は真っ赤に染まり、白い歯を食いしばっている。
「こんな――こんなもの!」
文彦の体中から一閃するように憤怒が湧き上がり、ほとばしって覆い尽くす。淳史は文彦から感じた、瞬間的な怒りのパワーの大きさに、一瞬息を呑んだ。
「こんなものを持ちやがって、何が言いたいんだ! それで、すべてがチャラになるのか!」
文彦はアルバムをつかみしめると、激しく投げつけた。ひらかれて床に打ちつけられたページはぐしゃりと曲がり、ざらざらとした床を滑っていく。
「文彦! やめてくれ」
淳史は急いで拾うと、それ以上は文彦が手を出せないように、服が汚れるのも構わずに両腕で胸の中に納めた。
「これは俺が欲しい。俺が、もらう」
「淳史には、関係ないだろう?」
冷たいぎらりとした眼差しは、体格を越えて狂えるような危うさに満ちている。
「関係あるよ。この中にいるのは、文彦じゃないか。俺の大事な、文彦なんだ――俺が知らなかった、小さな頃の」
文彦は息を喘がせながら、やや眼差しを淳史へ向けた。
「こんな汚らしいアルバムを、あの部屋のどこに置いておくつもり?」
「汚れは最小限にできないかやってみる。俺がまだ出会わなかった、ちいさくて可愛い文彦が、ここにいる。だからこれは――俺の宝物だ」
「そんなものが?」
「そうだ。ここには俺の知らない文彦がいる」
淳史は静かにページをひらくと、見つめた。
「永遠に見ることはできないと思っていた……良かった」
力を使い尽くしたように、文彦はよろよろと床に座り込んで両手をついた。わずかにふるえて、その表情はゆるやかな髪に隠れて見えない。
「つか、れた……」
声色は完全にいつものトーンに戻っていた。先程の狂乱は嘘のように、そのままうずくまってしまったのへ、淳史がそっと背中を撫でた。
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